第7話
「まさか…。渚ちゃんが此処まで絶叫マシンが好きだったなんて…」
渚ちゃんに手を引かれて三回連続で絶叫マシンに乗った。
……ぶっちゃけると、すごく気分が悪い。
「直次さん、大丈夫ですか?」
「ああ、全然平気。次はどんなアトラクションに乗る?」
「絶対に体調悪いですよね、直次さん。あまり無理しないで下さい」
俺は甘く見ていた。
軽々しく煽った事を若干後悔する。
まさか、渚ちゃんが此処まで、絶叫マシンが好きとは予想していなかった。
彼女の言葉に甘えてアトラクションに乗るのは休み、食事を取った後に園内の店を彼女と共に回る。
渚ちゃんは様々な商品を手に取りながら目を輝かせていた。
ある程度気分が良くなり、空を見上げて見ると、刻々と色を濃くしていく美しい夕焼けの姿が伺えた。
「もう本当に体調は元に戻ったよ。わざわざ付き添ってくれてありがとう、渚ちゃん。もう時間的にあと一つしかアトラクションに乗れないけど、最後に乗りたい物とかある?」
そう告げると、渚ちゃんが俺の顔を見ながらもじもじし始める。
「あ、あのぅ…。私ちょっとお花を摘みに行ってきてもいいですか?……あと、アトラクションは観覧車でお願いします」
「あ、ああ全然良いよ。こっちこそ気が利かなくてごめん」
彼女が要望を言った後に足早にトイレに向かう姿を一瞥した俺は先程、渚ちゃんと共に回った店の一つを訪れる。
そして、渚ちゃんと集合して共に観覧車に向かう俺の手には、その店で購入した一つの紙袋が握られていたのであった。
◇
◇
「なんというか……壮観ですね!」
渚ちゃんは観覧車の窓にへばりつくようにして、外の景色を一望している。
彼女の表情はとても明るく、見ているだけで、頬が緩んでしまう。
「直次さん。貴重なお休みの日に遊園地に連れて行って下さり、本当の本当にありがとうございました! とても楽しかったです!」
礼の言葉こそ堅苦しいものの、表情自体は年相応の満面の笑み。
そんな彼女の言葉を聞いて安心した俺は
「此方こそ俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。これはそのお礼代わりだから、何も言わずに受け取ってくれると嬉しいな」
そう言い放ち、彼女に紙袋を渡す。
贈り物を手渡す時に気のいい言葉が考えつかなかったので、今日の感謝の気持ちをそのまま言葉にして伝えた。
渚ちゃんは紙袋から鮮やかな色彩の柄をした定期入れを取り出す。
……彼女のお眼鏡に叶うことは出来ただろうか。
俺の体に若干の緊張が走る。
「こんなに良くしてもらった上にプレゼントまで………本当に頂いてもいいんですか?」
「此方こそ、俺のセンスが気に入らなかったら全然処分しても構わないから…」
「処分なんてしませんよ…。ほ、本当にありがとっ…」
俺の贈り物を一頻り見た渚ちゃんが言葉の途中で俯いたまま黙り込んでしまった。
俺の贈り物の定期入れの柄のセンスがそんなに絶望的なものだったのだろうか。
……どのように声を掛けるべきか思案していると、いきなり俺の胸に飛び込んでくる。
驚いた俺が見下ろすと、彼女は今にも泣き崩れてしまいそうな視線を、すがりつくようにこちらに向けていたのだった。
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