第6話

 先日、考案した目論見を実行する為に、レンタカーを借りた。

 勿論、運転しているのは俺で、助手席には渚ちゃんが座っている。


「直次さん、そろそろ……どこに向かっているのか教えて頂いてもいいですか?」


「ごめん、もう少しで目的地が見えてくる筈だから…」


 渚ちゃんは訝しむ様に俺を見つめる。

 ろくに行先も伝えられずに、突然車で連れ出されたら怪しむのも当然だろう。

 彼女の貴重な休日を勝手に消費することに対する罪悪感は勿論ある。

 しかし、渚ちゃんが喜んでくれるという確信に近い感情を、俺は胸に抱いていた。


 しばらく車で高速道路を走行していると、目的地である遊園地が見えてきた。


「もしかして……直次さんは今、あの遊園地に向かっているんですか!」


 普段から、クールな渚ちゃん。

 そんな彼女としては珍しく、目を輝かせたながら俺に問いを投げかける。


「ああ、そうだよ。渚ちゃんの期待には答えられたかな?」


「はい! 以前からずっと行きたいと思っていたので、本当に嬉しいです!」


 彼女は俺の顔を見つめて、心からの感謝を込めて、礼を言った。

 その反応に確かな手応えを覚える。

 遊園地に連れて行くという、優作さんと交わした約束。

 それが破られた……と渚ちゃんは少し前に、落胆した様子で語っていた。

 もちろん、俺に優作さんの代わりは務まらないが、少しでも喜んでくれるならばとても嬉しく思う。

 入園した後の諸々の手続きを終わらせて、遊園地のゲートを潜ると、渚ちゃんが俺の手をおもむろに引いた。


「直次さん、直次さん。あそこにある一番人気のジェットコースターにいっぱい人が並ぶ前に行きましょう!」


 渚ちゃんは声を上擦らせながら、園内のマップを手にして、そう提案する。


 …いや、柄にもないという表現は不適切か。

 恐らく、今の姿が彼女の本来の姿なのだ。

 一人で家を支えている優作さんを困らせない様に普段は手のかからないクールな子供を装っているだけで。


「ふふふ……、あのジェットコースターは数々の絶叫マシン好きにトラウマを植え付けたと悪名高いけど…渚ちゃんに耐える事ができるかな?」


「あまり私を舐めないでください。このくらいの絶叫マシンなら余裕です!」


 語尾の上がった彼女が胸を張りながら自信満々に宣言する。


 渚ちゃんが浮かべる嘘偽りの無い朗らかな笑顔を見た俺は、少なくともこの瞬間は余計なしがらみを忘れて、全力で遊園地のアトラクションを楽しもうと心に誓ったのだった。




 









 

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