第5話
展開の速さに置いていかれている感は否めないが、それでも時間は過ぎていく。
激動の夜は既に明けて、薄暗い部屋には朝日の光が射し込んでおり。
早いうちに目が覚めた俺はキッチンに立ち、朝食を作っている最中だ。
「んむぅ……」
「おはよう。渚ちゃん」
熟睡していた彼女も目が覚めたようで、声になっていない声を上げながら起床する。
「パパぁ〜。今日の朝ごはんは?」
調理途中の俺の背中に中学生にしては発育が良い胸の感触が突然伝わってくる。
どうやら、寝ぼけた渚ちゃんが俺を優作さんと勘違いして抱きついてきたようだ。
「焼き魚と味噌汁…って、ちょっ、渚ちゃん!俺は君のパパじゃ無いよ!」
無職の男に女子中学生が抱きつく構図は不味いと判断した俺は渚ちゃんを引き離す。
すると、渚ちゃんは両手を用いて自分の目を擦った後に、俺の顔を凝視した。
「ごッ、御免なさい!わ、私勘違いしてッ!」
即座に謝る渚ちゃんの顔が茹で蛸の様に真っ赤に染まっていく。
「いや、全然気にしないで!俺もその、なんていうか…。役得?見たいな感じだったし!」
「本当に御免なさい…。この事は忘れて貰えるとありがたいです…」
俺のフォローが下手だったこともあり、気まずい雰囲気が出来てしまった。
だが、先ほどの様子だと、昨日起きた出来事に対するショックは無くなっている様で、安心する思いもあった。
朝食が出来上がり、二人で向かい合って食事を始めるが、ついさっき生まれた気まずい雰囲気は今でも続いている。
「あの…。父からお話は聞いていると思いますが、今日からお世話になります…」
「ああ!こちらこそ宜しく!不便な事が有ったら何でも言ってね!」
出来るだけ笑顔で。
優しい声色を意識して返事を返すと、渚ちゃんは愛想笑いを浮かべる。
その後は部屋のスペースの分担やら、お互いの洗濯物の取り扱いやら。
今後の生活についての話をした後に、渚ちゃんは中学校へと向かった。
「今の雰囲気のままじゃ、不味いよなぁ」
一人になった部屋で、朝食の洗い物をしながら独り言を呟く。
しばらくの間、共に生活する上で今の雰囲気のままだと、お互いにストレスは溜まる一方だろう。
何か、今の状況を改善する良い案は無いかと思案していると、ふとリビングに置いてあるテレビが目に入る。
「これだ!」
テレビから流れていたCMから良い案が思い浮かんだ俺は直ぐに預金通帳を手に持って外に飛び出したのであった。
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