その7.5 〜雨宮〜
晴海とのルームシェアを思いついたとき、断られたらどうしようという打算的な感情が真っ先に湧いた。
相手が異性なら勝算は百パーセントだと自負していたが、いかんせん晴海は女性。同性受けが悪いとは思っていないけれど、いかにも効率重視っぽい彼女と派手めな自分——勝率は多少落ちるだろう。
少しでも有利に進めるには——。そんなとき、同期の中に晴海と出身大学が同じ人が居るのに気付いた。
八雲君を誘ったのは、そんな他愛もない理由だった。
——あの子の面影を持った人。
晴海との日々はこれまでになく幸福だった。
自分がどうしようもなく恋愛体質なのは分かっている。あたしは良い子で、それを好きといってくれる人には簡単に身体を委ねた。愛されることでだけ、あたしはあたしでいられる。問題が表面化すると、晴海は少しだけ文句を言って、でも最後には必ずあたしを庇ってくれる。
いつしか、それをまどろっこしいと感じるようになっていた。
——あの子とは勝手が違う人。
晴海との間にある距離感は特殊だった。まるでクラゲのように——、近づいたと思ったらふよふよと離れていってしまう。うっかり糸を引く手に力を込めたら千切れてしまいそうで、あたしはせめて彼女が見える範囲からいなくなってしまわないようにと、気持ちを繋げたかった。
——あたしと同じ匂いのする人。
それを、自分から壊した。
彼氏いない期間が長すぎて、頭が沸いたのかもね。
せめて手の中に一本残った糸を大事にしようと思った。刺されて紫色になった手のひらは見ないようにして。
実家の——小樽の空は高く澄んでいた。
***続く***
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