interlude:河内咲季について
白窓 #2
簡素な病室だ。ベッドの周りに、バイタルセンサーの小さなモニターと点滴が置いてあるだけ。物音ひとつない白い空間は、まるで時が止まったかのよう。
その中で、妹の咲季は、リラックスした顔で眠っている。
「咲季、おはよう。凛咲だよ」
枕もとに顔を寄せて、挨拶をする。当然だけど応えはない。
窓辺に置かれた口の細い透明なガラスの花瓶を手に取る。前回生けた一輪の白いシャクヤクの花びらは色あせ始まっていた。
持ってきたミニブーケの包みを開ける。一輪の青いカンパニュラの切り花。花瓶の水を入れ替えて、それを生ける。膨らんだ風鈴のような花弁は、涼やかな音色を奏でるようで、梅雨入り前の湿った空気を吹き飛ばしてくれそうな気がする。
いつもの決まりきった作業を終えたら、後は二人で自由に話をする時間だ。
ベッドサイドにあるパイプ椅子に腰掛けて、彼女に語りかける。
「温泉、行ってきたよ。先輩とね、ちーちゃんも一緒」
「シケンの子たちもいたの。すごいよ、十二人で旅館貸し切っちゃった。貸切風呂なんて初めてだったなぁ」
「楽しいこといっぱいあったんだぁ。あ、卓球もしたよ————」
話しているとふいに、ちーちゃんの日向のような声を思い出す。
『写真、撮ってもいいですか?』
桜の園で初めて会ったときも、そう言っていたっけ。相変わらず、撮ってから断わるものだから、可笑しくなってしまう。
「そういえば、嬉しいことがあったよ。私がずーっと昔にあげたカメラ、大事にしてくれてたの」
「うん。咲季と私が初めて伯父さん——涼ちゃんにもらったカメラ。私もプレゼントしたの忘れてたくらいなのに。本当に、いい子なんだ」
——本当に、どうしてあんなにいい子なんだろうね。
まるで咲季のようだよ。いつも前向きで、手を引いてくれるの。
そう心の中で呟いて、私は咲季の温かい血の通った手をさすった。
***続く***
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