interlude:愛と平和と日和と

写真《であい》


 その子に出会ったのは、恭一くんと一緒に第二体育館を通りかかった時だった。波照間会長に厳重注意をくらって肩を落として歩いているところに、ぱぁっと明るい声が飛び込んできたのだ。


「撮りますよっ。らぶ・あんど・ぴーすっ!」


 女子バスケ部が揃って記念撮影をしている。クラスメイトも何人かいた。確か一年生の勧誘で模擬試合をしているはずだ。

 どうしたんだろうと思って眺めていると、恭一くんもそちらに注目しているのに気付く。


「どうしたの?」


「うん。良いカメラだ。PENCILのプロ向けデジタル一眼レフだよ」


 恭一くんは口許を綻ばせて教えてくれたけど、そのすごさがアタシには伝わらなかった。カメラのことはちんぷんかんぷんだ。


「——そこの先輩たちも、一緒に入っていきますか?」


 カメラ片手に、生徒が手を振ってくる。なんだかお風呂みたいな文句だなと思っていたら、恭一くんはバスケ部の一団の方に歩いていく。アタシも急ぎ足で続いた。


 近くで見ると、彼女は思っていたよりも小柄だった。


「僕が撮るよ、君も入りな?」


「大丈夫です」


 そう言って、彼女は手早く三脚を立てる。「ね——」と破顔したその子は日向のように晴れ晴れしかった。


「本格的ねー」


「写真、好きなんだね。うちに入ってくれて、嬉しいよ。……えーと」


「いちかです」


「いちかくんか。僕は羽賀恭一はがきょういちです。よろしく」


「アタシは大瀬日和おおせひより。ヒワで良いよ」


 カメラのことは分からないけど、写真も良いなと思った。ぜひウチの部に——と言い出しかけて、やめた。

 ついさっき勧誘活動を台無しにしたどころか、危うく怪我人まで出しかけたのだ。あのバカ二人にきちんと反省してもらうまで、口が裂けても「アットホームな良い部活です」なんて言えたものじゃない。


「なにしてんのー! 早くおいでよっ!」


 バスケ部員らしき子が呼びかけてきたので、タイマーを仕掛けて、いちかちゃんを中心に駆け足で向かっていく。

 いちかちゃんは全員が並んだのを確認してから。


「せ〜のっ! らぶ・あんど・ぴーすっ!」


 うん。今日も世界は清々しいほどに、愛と平和に満ちている。




   ***続く***

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