生徒と教師のお話

 むかしむかしあるところに補習で居残る男子高学生と採点のために課題を解くまで待つ男性教師がいました。二人は教室の学習机を対面に繋ぎ座っています。

 「そういやさ、先生、知ってる?隣のクラスの佐藤、卒業したら海外に行くんだって。」

 そう言う生徒の声に、教師は書類作業をしていた手を止めずに答えます。

 「おー、職員室で話題になってたよ。アメリカの大学に合格したんだってな、先生も嬉しいよ。」

 生徒はため息をついて言います。

 「はぁ、先生もそんな感じか。」

 様子を伺う教師に生徒は話を続けます。

 「皆、なんとなく海外の大学なんて凄いとか言ってるけど。俺は同じ学校で同じ授業を受けてた同い年の奴が、自分よりそんなに優秀なのかって思っちゃうんだよね。そりゃあ、佐藤は頭も良いし、スポーツも上手いし、性格も良いけどさ……なんか、なんか嫌だなーって。」

 教師は笑みを浮かべて、それでも優しい声色で生徒に言います。

 「なんだ?嫉妬してんのか?」

 生徒は否定するでも肯定するでもなく「いや、そうじゃなくて、なんていうか」とごにょごにょ言います。

 教師はフッと笑うと書類作業を止め、生徒の方を向いて話し始めます。

 「別にいいんじゃないか、嫉妬が原動力で伸びる子もいるしな。……でも、先生は頑張ってる子を見ると応援したくなるんだよ。先生だからってわけじゃないぞ、まあ、それもあるんだけど。」

 生徒は苦い顔で教師を見ています。

 「将来、もし佐藤が『タイムマシン』とか『どこでもドア』なんかを作ってくれたら嬉しいだろ?子供だけじゃない、食糧問題の解決だったり、宇宙旅行だったり、どこかの誰かのおかげで生活を豊かになって皆が幸せになれるなら嬉しいと思わないか?だからな、先生にとって他人は希望なんだ。」

 生徒は納得したような納得いかないような複雑な様子です。

 「もちろん、お前にも期待してるからなー。だから、補習も頑張れよ。」

 教師は最後にそう言うと置いていたシャーペンを持って書類作業に戻りましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る