探偵と助手のお話

 むかしむかしあるところに有名な女探偵と荷物持ちの助手の青年がいました。未解決とされていた事件は探偵により真実が暴かれ、犯人は警察と共に連れていかれます。

 「これで今回の仕事は終わりですね、先生。」

 連れていかれる犯人を横目に助手が言います。

 探偵は呆れた顔で助手に言い放ちます。

 「はぁ、何を言っているんだ助手君。」

 助手は不思議そうな顔で探偵に言います。

 「え?でも、事件を解決して、犯人も捕まえて、一件落着じゃないですか。」

 探偵はその場から社用車の方に歩き出します。

 「先生、どこ行くんですか?」

 そう聞く助手を置いて探偵は進みます。

 「助手君、私たちの仕事は何だ?」

 助手は探偵を追って答えます。

 「それは、未解決だった今回の事件を解決すること。」

 探偵は淡々と次の質問を投げかけます。

 「違う、探偵の仕事は依頼主の依頼を遂行することだ。それでは、今回の依頼主は誰だ?」

 助手は答えます。

 「この事件で被害にあった子のお母さんです。」

 探偵は社用車までたどり着くと、助手の方を振り返って言います。

 「そうだな。たしかに、私たちは事件を解決し、犯人を捕まえた。しかし、それは依頼の過程にすぎない。依頼は『依頼主の子が死に至った理由を伝えること』だ。だから、私たちは依頼主に今回のことを全て伝える責任がある。」

 「それで、車で依頼主の所まで行くんですね。」

 助手はやっと探偵の意図を理解して社用車の運転席に乗り込みました。

 それを見た探偵は助手席の扉を開いて言います。

 「そうだ。仕事というのはね、花形ばかり注目されるが全て重要なんだ。」

 探偵は乗り込み、助手席の扉を閉めるともう一言。

 「だから、助手君の運転にはいつも助かってるよ。」

 社用車のエンジンがかかり発進してきましたとさ。

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