孫とお爺さんのお話

 むかしむかしあるところに母方の故郷ふるさとに里帰りした三人家族がいました。故郷ではお爺さんとお婆さんが孫に会うことを楽しみに待っています。

 孫は祖父母の家の扉を開くと、家中に聞こえるような大きな声で挨拶をします。

 「おじいちゃん、おばあちゃん、来たよー!」

 玄関に出迎えに来たお爺さんは言います。

 「おおー、よう来たな。外は暑かったやろ。ほれ、中は涼しいから早よ入り。」

 孫は両親が車から降りてくるのを待たず、お爺さんと一緒に中へ入りました。


 お爺さんは戸棚のお菓子を孫が座って待つテーブルに運び言います。

 「元気しとったか?」

 孫は元気に笑顔で答えます。

 「うん!前ね、小学校の友達とおっきなプールに行ったんだよー。」

 お爺さんは孫につられて笑顔で話します。

 「そうか、そうか。プールは楽しかったか?」

 孫は運ばれたお菓子に手を伸ばして答えます。

 「楽しかったよ!おじいちゃんは楽しいことあった?」

 「おじいちゃんかー、おじいちゃんはなー」

 尋ねられたお爺さんは返答に悩み、腕を組みしばらく考えました。

 痺れを切らした孫はもう一度尋ねます。

 「おじいちゃんは楽しいこと、ないの?」

 お爺さんは組んでいた腕を解いて答えます。

 「そやなー、歳をとると楽しいことは少なくなってくるなー。」

 孫はお菓子を食べながら純粋な目でまた尋ねます。

 「えー、じゃあ、おじいちゃんは何のために長生きしてるの?」

 孫の素朴な、それでいて核心を突くような質問に、お爺さんは目をぱちぱちさせて驚きました。

 それでも、お爺さんはにっこり笑って、孫の問いに一生懸命答えます。

 「ん-、難しい問題やなー。世間では、幸せになるためとか、夢を叶えるためとか、いろいろ言われとるけど。おじいちゃんもよう分からんわ。」

 お爺さんは続けて言います。

 「ただ、おじいちゃんは長いこと生きとって、一つだけ分かったことがある。それはな、『生きてるときにしか、生きてる人に会って一緒におることはできん』ってことや。こればっかりは死んでまうとできん。当たり前やけど、大事なんや。」

 お爺さんの長い話に孫は少し退屈そうです。

 そんな孫の雰囲気を感じたお爺さんは尋ねます。

 「友達と一緒やったら一人よりも楽しかったやろ?」

 孫はその質問はすぐに答えられます。

 「うん!」

 そして、お爺さんはしわくちゃの笑顔で言います。

 「おじいちゃんも、今日、お前さんらに会えて嬉しいわ。」

 「ふーん。」

 孫が少し恥ずかしそうに不愛想な返事をすると、お婆さんが父と母と一緒に入ってきて賑やかになりましたとさ。

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