二人だけの愛の形
余計な時間を過ごしてしまった僕たちは急遽街中まで戻り、ホテルを探すことにした。辺鄙なところにはタクシーもおらず、結局最寄りの駅まで歩いてしまった。
「さっきはありがとね。まさか出くわすとは思わなかった」
凛花は僕のマフラーを使い口まで隠して防寒していたため表情を汲み取れはしなかった。
「いえいえ。でもやりすぎたかなと思ってる」
「そんなことない。暴力も振るってないし、正当防衛だよ。隆一も少しは反省したんじゃないかな」
凛花は昔の記憶を思い出していないだろうか。僕はそれだけが心配だった。だが話している姿に動揺は感じられない。
「それならいいんだけど。気分とか悪くない?」
「隆一と会った時は気分悪かったけど、祐くんの姿見てたら安心してた。もうこの人が隣にいれば大丈夫だって」
凛花は強く僕の手を握った。それは今まで感じていたものよりも力強かった。
「もう、外にいる時は離さないようにするよ」
「本当に?」
突然僕の腕は勢いよく振り回された。肘が抜けて飛んでいったような感覚に陥る。しかし、指先の力は一切抜かないと誓っていた。
「本当に離れないね」
暗がりを照らすほどの明るい笑顔を凛花は見せてくれた。不自然なほど白い歯が今日も不自然に輝いていた。
駅に着くと運良く電車がホームに飛び込んできたばかりだった。僕たちは良かったねと言いながらその電車に乗ったが、終電だとは知らなかった。もう少し遅ければ野宿が確定していた。
人がいない車内のボックス席に座り、凛花は僕の肩に体を寄せて眠りについた。僕もうとうとしていたが乗り過ごしてしまうことを危惧し、なんとか目を開けていた。
主要駅に着くとそこは電飾が光っていて神々しかった。その風景に凛花の目も冴えたようだ。僕たちはそんな街を横目にホテルへと向かう。
僕たちは服も着替えずにベッドへ体を預けた。
「疲れたあ」
「いろいろあったからね。風呂に入って早く寝ようか」
凛花は突然僕の上に被さってきた。その行為に鼓動が高鳴る。
「今日妻ですって言ったでしょ?あれ、すごく良かったよ」
とろけるような視線で凛花は僕を見つめる。吐息は僕の顔に優しく当たる。
「僕の妻って思われたこと、ショックじゃなかった?」
「出会った頃ならショックだったかもね」
吐息の感触が明確になってくる。ゆっくりと僕の唇は凛花の唇に包まれた。そして、舌が静かに入ってくる。僕はそれを真摯に受け止めた。絡み合う舌と舌。それは二人の愛を証明しているようだった。
僕は初めて女性の体に入りたいと思った。好きだと思う女性の体に入ってみたいと。自然と右手は凛花の股間を触っていた。凛花は小さな声をあげる。
「自分からなんて珍しいね」
凛花の声に僕は一瞬動きを止める。
「隠していない凛花を見たいのかもね」
「じゃあ、全部見せてあげる」
凛花は妖艶に黒いニットを脱ぎ捨てた。そこから赤の下着が露わになる。その下着を堪能する前に凛花はそれも脱ぎ捨てた。
そして休むことなくスキニージーンズと下着を脱ぎ、あっという間に彼女は白い肌を見せつけた。
茶碗のように形の良い乳房を僕は一心不乱に貪った。乳首は徐々に硬直していく。舌でそれを押し返すと勢いの良いバネのように跳ね返った。
下半身に手を伸ばすと、そこは溢れ出る愛液で滑りに滑っていた。僕はその滑りを利用して緩やかに中指と薬指を溝に沿わせる。外側も愛液で濡らすと、その二本指を中へ入れて第一関節だけを使い、動かす。僕が動かすタイミングで凛花が喘ぎ、体が少しだけ反応する。
乳房から唇へと僕は口を移動させる。指は凛花の中で動かしたまま。凛花も僕のズボンを下ろして、怒張した下半身の先端を触り始める。久しぶりに覚える快感が体を迸る。
唇を外すと、周りまで濡れていた。激しく舐め合ってしまったようだ。
「もう欲しい」
凛花はそう言うと、僕の上に跨った。そして先端に唾をつけて濡らした後、ゆっくりと僕のものを入れていく。僕は今童貞を捨てた。
中は温かくて、柔らかかった。挿れる瞬間までコンドームもつけぬまま行為に及ぶのはどうかと抵抗があったが、入ってしまえば気にする余裕はない。僕はもう夢の中にいた。
凛花の背中に手を回すと、汗で湿っていた。太ももも脇腹も乳房まで全てが汗ばんでいた。表情はただ快感を覚えているようだった。
右往左往する腰の動きに合わせて僕も少しだけ腰を浮かし、奥の方へと突き刺した。凛花はその度に一瞬動きを止めて、大きな声を上げた。
腰はまた激しく動く。回るように激しく。もう意識を失ってしまいそうなほどの快感が僕を襲っていた。
「もう、やばい」
僕はもう果てそうだった。しかし凛花は僕のものを抜こうとしないまま激しく腰を回す。危険を感じた僕は凛花の脇腹を持ち、上にあげようとする。
「そのままでいいから。抜かないで」
そのまま重く腰を据えた。僕はもう凛花に従うしかない。激しい腰つきに負けた僕は力強く凛花の中で射精した。その瞬間凛花の体も痙攣する。僕と同じようなリズムで凛花の体は軽微に反応していた。
凛花は行為が終わると僕のものを体に挿れたまま、覆いかぶさってきた。そして強く抱きしめた。僕も同じように強く凛花を抱きしめた。
愛に身を任せた。そんな気がした。僕は人としての本能を初めて発揮した。過去の嫌だった思いも全て、僕は無くしそうになっていた。あの頃に見た初恋の子は苦悶の表情を浮かべ、涙を流していた。悲鳴のような叫び声を上げて、喉を枯らしていた。僕たちの間にそんな瞬間は一度もない。ただお互いにお互いを求めあっていた。
「ごめんね。辛くなかった?」
「ああ、愛し合うことがあれとは全く違っていると知ったよ」
お互いに表情はわからなかった。耳元に声が聞こえるだけ。それでも清々しいような表情を浮かべていることは察することができていた。
「私たちにはさ、やっぱり愛があるよね」
「これが愛なの?」
「そう。愛にはいろんな形があるけど、これは私たちだけの愛の形」
僕たちは生まれたままの姿で抱き合ったまま、煌々とした光を浴びて自然と眠りについた。
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