変化を

 俺は裕子の実家の電話番号を打ち込んでいた。これが俺にとってどんな未来を招くのかはわからない。ただ恵那の気持ちを考えるとこうすることが正解であると感じる。恵那と俺の愛の形は違う。

 前の家族に戻る。それが一体何時の時代を言っているかはわからない。だが祐に電話が繋がらない以上、事は進展しない。

 祐がいる可能性のあるところを考えた。祐は義理人情に厚い人間だ。高校を卒業した後も為体な俺と暮らし続けてくれた。

 可能性は低い。祐が幼い頃に別れた祐子の実家のことを覚えている訳がない。それでも性格を考えると祐は祐子の元へ向かう気がした。俺は覚悟を決めて、連絡をした。

「はい、麻生です」

 声の主は祐子の父親だった。掠れた声が年月を感じさせる。昔はよく通る声だったというのに。

「ご無沙汰しております。真太郎です」

 俺が名乗った瞬間、祐子の父は沈黙した。離婚した義理の息子がいきなり電話をしてきたのだ。本当であれば殺したいほど憎んでいる存在かもしれない。為体な俺の素性を祐子は離婚する際に包み隠さず伝えただろうから。

「何の用だ」

 沈黙を破った声はドスの効いたものだった。

「いきなりのご連絡で申し訳ありません。ご無礼をお許しください。実は息子が家を出てしまいまして、そちらにお伺いしていないかと思い、ご連絡致しました」

 使い慣れない敬語は棒読みで伝えられた。

「来ていない。要件はそれだけか」

 感情のない言葉で祐子の父は言い放つ。俺はいち早く電話を切りたかった。

「はい。お手数をおかけして申し訳ありません」

 俺が言い終わる前に電話は切れた。通話の終わった音が俺の耳にいつまでも残っていた。

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