同世代

 三日後、僕は凛花と初めてお茶をした喫茶店で、あの日と同じようにチョコチーノを飲んでいた。モンステラの花が店内には咲いている。

「あ、またチョコチーノ飲んでる」

 いつものドレス姿ではない凛花がいた。白のニットに、ベージュのトレンチコート。それに黒いワイドパンツ。OLの休日を思わせるようなファッションだった。

 長いコートをはためかして椅子に座り、ウエイターにコーヒーを注文する。

「なんか雰囲気違うね」

「え?前ここで会った時もこんな感じじゃなかった?」

「なんか大人っぽいというか」

「今まで子供っぽかったってこと?」

 凛花は頬を少しだけ膨らませた。その表情は本当に幼い子供のようだった。一体凛花は何歳なのか、わからない。見方によっては年上のようにも見えるし、年下のような雰囲気もあった。

「凛花って何歳?」

「え?今更?逆に何歳に見える?」

 質問に質問で返されるとは思っていなかった。僕は悩む。ここで実年齢より幼く答えてしまえば怒られる可能性は高い。女性は年上に見られると嬉しいという見出しのついた雑誌を漫画喫茶で見た。早速、試してみようと思う。

「二十三歳?」

 僕が言った年齢を聞き、凛花は少し動きを止めた。動いていたのは視線だけだった。そしてため息をついた。

「そんなに上に見えるんだ。少しショック」

 あの雑誌は嘘つきだ。年上に見られても女性は嬉しくないではないか。今ここにあの雑誌があったならすぐに破り捨てていただろう。

「いや、今日の格好を見てそう思ったんだ」

「ああ、大人っぽいファッションってこと?それなら許してあげよう」

 ただ、その雑誌に書いてあった、間違った時のフォロー方法は役に立った。僕は少しだけ安堵する。

「実際は何歳?」

「女性に年齢を聞くのは失礼なことなんだよ?知ってた?」

 凛花は先ほどよりも大きなため息をついた。失礼な質問を平然と投げかけるとモテない理由に繋がるとは雑誌にも書かれていなかった。勉強になる。

「ごめん」

「十九歳。ぼっくんが伝えた歳より四つも下だよ」

 僕が謝ったとしても凛花の機嫌は直らない気がした。何も考えず話ができるのは男同士の特権かもしれない。女性には必ず、誰であっても気を使わなければならないのだ。

「そうなんだね。誕生日はいつ?」

「誕生日は七月だけど」

「夏生まれなんだね」

「そう。ぼっくんは何歳なの?」

「僕は二十歳だよ」

 凛花はじっくりと僕の顔を眺めた後に大きな声で笑った。客の視線がこちらに集まる。僕はあの時を同じように会釈した。

「なんで笑うんだよ」

「もっと上だと思ってたのに、同じくらいだから」

 凛花は息も絶え絶えにそう言った。僕は確かに老け顔かもしれない。幼い頃から眉毛が太く、額が広かった。それに加えて思春期を迎えると髭が濃くなり、今ではもみあげと顎髭が繋がるほどである。

「それも失礼だよ」

「ごめんごめん。お互い様だね」

 凛花は笑いながらコーヒーを一気に飲んだ。その姿を見て僕も一気にチョコチーノを飲み干す。

「じゃあ行こうか。お母さんを探しに」

 この満ち満ちた自信はどこから湧いてくるのだろう。彼女の自信はきっと今までの経験が影響を与えているとは思うが、元から備わっている要素も少なからずある。僕に無いものが彼女に備わっているから、前を向いて行動できるのだ。

 僕たちはいつもの喫茶店を出た。最初の目的地はもう決まっている。

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