終わりの見える世界

 変化が起きたのは働き始めて一年が過ぎた頃。深緑に染まっていた木々の葉っぱも赤い色へと変化していった時期だ。

その日もいつも通り朝九時に起き、店内の片付けをしながら朝食を作っていた。

普段通りであれば楓さんは朝食を食べている最中に店へとやってくるのだが、その日は朝食を食べ終わっても店に姿を現さなかった。正午を過ぎても楓さんは一向に顔を出さない。私の心を次第に闇が蔓延っていく。

 しかし私は楓さんの住処を知らなかった。車は持っていないと言っていたから、それ以外の手段で出勤しているはずである。

つまりこの店からそれほど遠くはないところに住処を構えていると考えられる。ただそれだけの情報で行動に移しても結果は伴わない。私はただこの店に誰かが訪れる瞬間を待つしかなかった。

 時刻が三時を過ぎた頃、店のドアが開く。鍵を持っているのは楓さんと私だけである。私はその音に安堵して、和室から店内へと向かった。

しかし、その安堵感は一時ばかりの感情だった。赤いソファの上で横になっている楓さんの姿が目に入ってくる。呼吸は浅く、顔色も白い。生気を奪い取られているようだった。

「どうしたの?」

「ああ、少し体調が悪くてね。すぐ準備するから」

 楓さんはすぐに体を起こそうとしたが、どうやら思うように力が入らないらしい。体勢を変えようとしても、その場で蠢くばかりだった。

「病院は?」

「行ってない。起きたらもう二時過ぎでさ。慌てて着替えてきたんだよ」

「病院に行ったほうがいいんじゃない?」

 暖かい室内に入っても顔色が全く優れない。しかし呼吸だけは落ち着いてきているようだった。

 ただ、このままの状態で店を開けるのは不可能に近い。店のキャストが揃うまでは後二時間ほど。その間に一人で買い物をして、お通しを作らなければならない。その状況を打開する術が私の中には見つからなかった。自分の無力さを思い知らされる。

「少し休めば大丈夫だよ。この体勢だと体も楽だし」

 楓さんは頑なに病院へ行くことを拒む。私は気づかれない程度に小さくため息をついた。そして和室から毛布を持ってきて彼女の体にかけてあげた。

「寝ても良くならなかったら、私も一緒に行くから病院に行こう?」

「うるさいねえ。世話焼きなところは花凛とそっくりだ」

 楓さんは力なく笑った後、ソファの肘置きに頭を預けてすぐに目を閉じた。このまま死んでしまわないかと心配になり、逐一呼吸をしているか確認した。

 私はいつも楓さんがやっている店内の掃除と準備をできる範囲で行なった。楓さんに店をやる意思がある以上、開店準備を怠る訳にはいかない。

楓さんはその準備が終わると店内に飾ってある絵を丁寧に拭いていた。開店準備を一緒にすることがあってもこの絵の掃除は必ず楓さんが一人で行なっていた。

「これだけは永遠に私がやらなきゃいけない仕事だよ」

と言って、作業を私に任せはしなかった。

 その絵は夜の海を描いたもの。濃紺の空には無数の星が瞬き、大きな月は夜の闇を仄かに照らしている。天から光が降り注ぐ浜辺には一本の白い花が咲いている。浜辺に花が咲く風景など現実にはあり得ないが、絵の白い花に違和感を抱きはしない。天まで届きそうなほど、力強く咲いているからだろうか。

 私はおしぼりで丁寧に絵画を拭いていく。おしぼりを見ると茶色に変色していた。煙草のヤニがたった一日でこんなに溜まることを知ると、楓さんが毎日丁寧に拭いている理由もわかる。

 絵画を拭き終え、テーブルにおしぼりを置いている時、楓さんが目を覚ました。

「気分はどう?」

「ああ、だいぶいいよ」

 先ほどとは違い、楓さんはすんなりと体を起こす。その姿を見て私は思わず笑みがこぼれた。

「準備してくれたんだ。悪いね」

 楓さんはカウンターにあるおしぼりを取り、海の絵へと向かった。

「ごめん、掃除しちゃった」

「そう、ありがとね。だけど拭き残しがいっぱいある」

 楓さんはおしぼりの端を細くして、四隅を入念に拭いた。そのあとに椅子の上に乗って額縁を上辺を拭いた。

「ほら、まだこんなに汚ない」

 おしぼりはさっき私が拭いたものより汚かった。そこまで気が回らない自分に不甲斐なさを感じる。

「ごめんなさい」

「だからこれは私の仕事だって言っただろ?」

 楓さんは優しく微笑む。少しだけ自分の仕事を自慢している。そんな雰囲気だった。

 化粧をして、店内に戻ってきた楓さんはいつもの楓さんだった。先程までの青ざめていたとは思えない。妖艶な魔女が客を相手にしていた。

しかし私には胸に引っかかるものがあった。それは明確に何とは言えないもので、それはしばらく私の胸の中を滞留し続ける。

 楓さんとともに店内を片付けている時もその胸のつかえが取れることはなかった。テキパキと動く楓さんを見ても、夕方の苦しんでいた姿が目に浮かぶ。

その化粧の裏には今もまだあの雪のような白さが残っているのだろうか。結局化粧を落とさないまま、楓さんは店を後にした。背中が小さく見えたのは偶然が生んだ幻なのだろうか。

 それから一週間ほど楓さんは今までと変わらない姿を見せた。私が店の準備をしている間、楓さんは毎日欠かさず丁寧に絵画を拭く。

しかし楓さんの異変はまだ終わりを迎えてはいなかった。

「楓さんが倒れた」

 寝ぼけ眼をこすらずとも、視界が正常に戻っていく。電話越しの優美さんの声は上ずっていた。私は早急に準備をして伝えられた病院へと向かう。

 街中の雑踏も全く気にならなかった、音のない世界で楓さんの背中をひたすら追う。背中に手が届かない。どれだけまっすぐに手を伸ばしても手は空を切る。

 楓さんは病室で寝ていた。赤いソファで寝ていた時と同じように穏やかな表情で。しかしそこには心電図を測る機械が無機質に置かれていて、いろいろな管やケーブルが楓さんの体に巻き付いていた。

 何故楓さんがこんな状態になっているのかを理解できない。昨日まで普通に過ごしていた。普通に歩いて、普通に会話して、普通にご飯を食べて。それだというのに楓さんはこんなに深刻な状態に陥っている。

「脳出血みたい」

 私の下腹部が久しぶりに痛みを覚えた。優美さんが顔を伏せたまま言ったその病名は私の中で死ぬというイメージがついている病気だったからかもしれない。

 楓さんがそんな病気になったことを理解できず、私は病室の床を涙で濡らした。その咽び泣く声に楓さんは反応しなかった。

 結局私は泣いたまま優美さんに連れられ、病院を後にした。帰りの道中、私の視界は涙で歪む。今歩いている道が現実にあるものかどうかもわからない。

しかしいつも明るく声をかけてくれる優美さんが私の背中を摩るだけで一言も発しない。こんな状況は今まで体験したことがなかった。全てが幻想にも思える中で楓さんが入院している現実だけが間違いのない事実として存在していた。

 私は優美さんに支えられながら、店へと戻った。私も抜け殻のようになりながら、ソファに体を預ける。

「深呼吸して」

 私は促されるままに深呼吸をする。吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返す。次第に呼吸は落ち着いていった。私の呼吸が落ち着くと優美さんは煙草に火をつけて深く煙を吸い込む。そして白くて濃密な煙をゆっくりと吐き出した。

「朝、朦朧とするって言っててさ。その時にはもう呂律も回ってなくて。急いで向かった頃にはもう意識がなかった。慌てて救急車呼んだよ」

 優美さんにはいつもの余裕が戻っていた。動転している私を支えている間に正常になったようだ。

 楓さんは最近頭痛に悩まされていた。それが引き金だったのかはわからないが、日頃から過度の飲酒、煙草の吸いすぎが一番の要因だろうと優美さんは教えてくれた。

「まあ日頃の不摂生が祟ったってことだよ。それでここからが問題なんだ」

 煙は部屋の中に滞留していた。換気扇の回っていない店内を薄く包んでいく。その靄はしばらく空中を浮遊して、消えようとしなかった。

「これからの入院生活がどれだけ続くかわからない。その間オーナーがいない中で店を開けることになる。だけど私たちはこの店の経営に関して、何も知らないんだ。そんな中でがむしゃらにやっても、赤字を出さないとは限らない」

 優美さんの伝えようとしていることはなんとなくだが理解した。それはもう全てを諦めかけているということだ。

「きっと楓さんは性格上私たちだけで働いたお金を使いはしない。私たちが楓さんのために店をやっても意味がないのさ。だから早めに店をたたんで、余計な出費を抑える。そして楓さんの手元に多くお金を残してあげる。それが大事だと思うんだ」

 優美さんの語る内容は、私に複雑な思いを抱かせた。優美さんの考えていることは真っ当である。楓さんはきっと私たちの働いたお金を使おうとはしないし、もし私たちだけで経営して赤字になったら楓さんに迷惑がかかる。

 しかし店をたたむのは楓さんの生きがいを奪うことと同義だ。楓さんの愛したお店を簡単に潰してしまう行為は裏切りに値するのではないのかとも思っていた。

「そんな怖い顔するなよ。私だって本当は店を続けていきたい。でも楓さんは一日でも私たちだけで店を開ける事を許さなかっただろ?」

 私は自然と鋭い眼光で優美さんを見ているようだった。少しだけ瞬きをして目の力を抜く。

 楓さんは自分の用事で店に来ることができない時、必ず店を休みにした。従業員だけでも店を開けることはできたはずなのに。

 ただ定休日以外で店を開けないという日は少なかった。そこは楓さんが従業員の生活を考えていたからだ。この店に出勤することで生計を立てている人だっている。それを考えると自分都合で店を休む選択をしたくなかったのだと思う。

「楓さんの意識がこのまま戻らなかったら、店を閉めることも考えなくちゃいけない。それがきっと楓さんのためなんだ」

「でも楓さんはこのお店が好きです」

 優美さんは煙草の煙を深く吐き出した。煙は緩やかに上空へと舞い上がる。その様はため息をついているようにも見えた。

「それはわかっているよ。でもそれだけじゃどうなもならない事だってある」

「楓さんの意識が戻るまでの期間だけでもこのお店続けられませんか?」

 優美さんは頬杖をついて視線を落とした。

 優美さんはこの店のナンバーツーである。まだ年齢は若いが従業員の中でも在籍日数が長く、楓さんからも一番信頼されていた。他の従業員が店に出られない時は率先して店に出る人でもある。実際問題、今決断を下せるのは優美さんしかいない。

 どうにかして優美さんを説得したかった。今店を閉める決断をする時なのかと。ただ優美さんがこの店の経営について全く知らないというのであれば仕方ない。博打が破壊を齎す可能性もある。

 皮肉にもこの店は繁盛していた。私たちの生半可な実力では店を回すだけでてんてこ舞いになる。それでもこの店をやってさえいれば、楓さんが安心して帰ってこれる。その場所を無くさないことが大切ではないかと強く思う。楓さんが私たちを生かしてくれているように、今度は楓さんを何とかして生かさなければならないのだ。

「凛花はこの店を今働いているやつだけで回せると思う?」

 根拠はないが、強く頷いた。その姿を見て、優美さんもまた何度か頷いた。

「なら、一ヶ月。まずはそこまで赤字を出さなければ続ける価値はあるかもしれない」

 一ヶ月。それは短い期間である。しかしオーナー不在のローズマジックにおいて、その期間は長く感じた。

 優美さんは煙草の火を消すと勢いよく立ち上がり、入り口へと向かった。

「今日、店開けるよ」

 優美さんはジャージ姿で玄関前の掃除を行うようだった。その姿は少しだけ楓さんの後ろ姿に似ていた。

 それから一日かけて、店内の準備をした。楓さんの準備する風景を見ていたのは私だけ。日頃から見ているとは言え、その工程を一から十まで思い出す作業は苦難の連続だった。必死に記憶の中から楓さんの準備している姿を引っ張り出す。形だけかもしれないが普段と似た雰囲気を醸し出せた気はする。

 食材の仕入れも本来楓さんの仕事であったが、裏方に徹している私が食材を揃えることは容易だった。料理に関しても楓さんとともに作っていたため、調理には自信がある。万全とまではいかないが、今日の営業はある程度の形を保って行なえると思っていた。

 従業員が集まると優美さんから楓さんの病状について報告があった。店内にはすすり泣く声だけが響き渡る。いつもは活気のある明るい店も今日だけはお通夜のような雰囲気だった。

 キッチンには料理に自信のある忍さんが入ってくれた。優美さんは楓さんのポジションに入る。キャストは減るものの、営業を開始できる体制に変わりはない。新しいローズマジックが今始動した。

 オープンしてすぐに常連が店へ顔を出す。しかし楓さんのいない空間に驚いた様子だった。

「今日ママは?」

「今日はお休み。何にします?」

 常連は生ビールを頼む。私はすぐにサーバーへと向かいビールを中ジョッキへ注ぐ。

 朝の沈んだ表情はなかった。頭がすぐに仕事へ切り替わる優美さんを尊敬した。

「珍しいね。ママの炒飯が食べたかったんだけどなあ」

 楓さんの炒飯は人気があった。中華料理屋で出てくるようなパラパラしたものではないが、しっとりとした炒飯は家庭的で、優しい味だった。炒飯は残念ながらレシピに載っていない。今ここで同じものを提供できる自信はなかった。

「一応炒飯は出せると思うけど」

「いや、ママがいるときに食べるよ。今日はビール飲んで帰るわ」

 常連の客は中ジョッキのビールを一息で飲み、その一杯だけで帰っていった。普段であれば何時間もカウンターに居座り、楓さんや他の女の子と話していく人なのに。

 その後に来た常連の客も長居はせずに帰っていった。ソファに座り、女の子と談笑していくのは新規の若い客だけ。ローズマジック内もてんやわんや状態でうまく回らず、誰もが手探りで必死に動いていた。

酒の提供も遅れ、新規の客に怒られる始末。楓さんが店にいた間、これほど焦る状況は一度もなかった。私はここで楓さんの偉大さを改めて知らされる。

 営業が終わると、誰もが言葉を発せられないほど疲れ切っていた。経験の浅い従業員たちの中には放心状態で遠くを見つめる人もいた。私もカウンターに座り、楓さんが丁寧に拭いていた大きな海の絵をぼうっと眺める。楓さんが帰ってくるまでこの店を守りたい。浜辺に咲いている芯の強い花に願いを込めた。

 しかしその願いは届かなかった。楓さんはそれから二週間眠り続け、楓さんの病状などを隠しながらの営業にも限界が見えていた。常連の客は次第に店から遠のいていく。楓さんだけに彼らは用がある。その現実をまざまざと見せつけられた。楓さんはやはり偉大だった。

 それでも平日からよく店にいる優美さんや忍さんを慕ってくる若い男たちも多かった。しばらくの間は優美さんや忍さんを慕う男たちの力でこの店をやっていかなくてはならない。もちろん飲む量は若い男たちの方が多いし、一回でおいていく金額も大きい。

しかしその男たちは頻繁に顔を出さない。この店を支えていたのはほぼ毎日のように少ない酒と少ないおつまみを頼む、常連たちだったのだ。

 私は楓さんがいなくなったことにより、この店で働くことが当たり前ではなかったと知る。楓さんがいなくなった途端、店はうまく回らなくなり、私たちの給料もどうなるかわからない。

 それだけじゃ、どうしようもないこともある。優美さんの言葉をあのまま信じていればよかったのだろうか。そうしていれば、みんな青ざめた顔を裏に隠して、必死に仕事をしなくてもよかったのだろうか。結論を導き出すことは出来なかった。

 もうすぐ楓さんが倒れて一ヶ月が経とうとしている頃、その知らせは突然届いた。

 けたたましいダイヤル音に私は飛び起きて店内の電話を取った。電話の主は優美さんだった。私は思わず息を飲む。唾液は喉の途中で止まっているようだった。

「楓さんが目を覚ましたよ」

 私の願いはやっと届いた。その知らせを聞いた私はすぐに病院へと向かう。足が軽かった。とても軽くて、飛んでしまいそうだった。

 病室に入ると、楓さんは上の空で天井を見つめていた。まだ体に管はいっぱい巻き付けられている。それを確認したと同時に優美さんがつけている香水の香りが鼻をついた。しかしもう優美さんの姿はない。

「楓さん」

 私の声に気付くと楓さんは笑顔を浮かべて手を挙げた。

「よく来たね。少し見ない間に顔が変わったみたいだ」

 少しだけ呂律が回っていない。これが脳出血の後遺症なのだろうか。

 楓さんは私の顔に手を添える。その手は右手だけが小刻みに震え、ぎこちなく私の頬を撫でていた。

 最初に化粧をしてもらったときのことを思い出す。だが、昔のように手は暖かくない。ずっと布団の中で寝ていたとは思えなかった。頬に触れた瞬間、私の神経が過敏に反応した。

「辛い思いさせてるね。ごめんよ、凛花」

 楓さんの声は切なかった。今にも消え入りそうなほど弱々しかった。私は楓さんを心配させるためにここへ来たわけじゃない。楓さんが目を覚ました事が嬉しくて、楓さんの声が聞ける事が嬉しくて、ここへ来たのに。

「辛くなんかないよ。大丈夫」

 楓さんの頬には一筋の細い道ができていた。そこを沿うように水滴がゆっくりと流れていく。私の頬にも涙が伝いそうになった。だがここで泣いては楓さんに心配をかけさせる。そう思って必死に涙をこらえた。

「隠したって無駄さ。もうあの店は潰した方がいい。お前たちだけでできるほど甘くはないからね」

 私は隠せる自信もないのにまた隠そうとする。そのことがまた人を心配させることになる。何故私は同じ過ちを繰り返すのだろう。

「でも、楓さんが帰って来たときはどうするの?お店がなかったら何もできないでしょ?」

「その時はその時さ。私一人で店を始めればいいよ。お前たちがあの店を継ごうとしているなら私は反対する」

「どうして?」

「思いが違うからさ。上に立つ人間はね、店を生かすために色んな苦労をしてるんだ。お前たちみたいに個人を助けようなんて考えて店を経営しても、うまくいかないよ。私が店を生かしているから、精一杯お前たちを育てる環境ができた。店が死ねば、誰にも利益は生まれない。死にかけた店の呪縛でお前たちが野垂れ死ぬのは、私の望んでいる未来じゃないよ」

 優美さんは楓さんの気持ちをすでに汲んでいたのかもしれない。私が子供だったのだ。店が残ってさえいれば楓さんの帰ってくる場所がある。これから先もこの店で生きていける可能性がある。しかしそんなものはただの願望にしか過ぎない。

「あんな店、無駄な遺産だよ」

 病院の窓から降り注ぐ光。それは今後の未来を明るく照らしてくれるものだろうか。そうであってくれるなら、私は嬉しいのだが。

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