第9話 変な奴


 試合形式の練習中、彰はそれとなく、侑司のプレーを目で追う。

 以前と特に変わりないように見えるが、やはりネット際でのプレーを意識しているように見えた。


 弱点を自覚し、騙すことなくぶつかり、克服する。

 それが正しいアスリートの姿に思えるが、簡単なことではない。


 自分の弱点は何だろうか。彰は自問する。


 もちろん、全体的に足りていないことは分かる。しかし、特筆するようなウィークポイントは何だ。



 ところで、侑司は変な奴だ。


 ちょっと普通とは違う。

 彰はうすうすそう思っていたが、今日、あらためてそう思った。



「そんなもん分かってりゃお前に勝ってるよ。」


 侑司はチーズインハンバーグを頬張りながら言った。

 

「大体、自分の弱点を宿命のライバルに聞くって何だそりゃ。」

「いつから宿命のライバルになったんだよ。」

「2週間くらい前?からだよ。とにかく、自分のプレーしてりゃいいじゃねえか。うじうじ考えずによ。」


「お前みたいにセンスがあれば、そう言えるんだろうけどさ。」

 彰はぼやいた。


「メシ、冷めるぞ。」

 侑司は早食いだ。味もへったくれもなく、ガブガブと料理を平らげる。対して、彰はゆっくり食べる方だ。チキンソテーを一切れずつ、丁寧に咀嚼している。


「今日、部長と試合したんだけどさ。」

「部長?」

「学校の部活の。」 

 ああ、そういうことね、と侑司は頷いた。


「負けたのか。」

 彰はぶんぶんと首を振る。こいつの癖だな、と侑司は笑った。

「いや、勝ったんだけど、勝った気がしないというか。」


「勝ったならいいじゃん。それ以上何があるんだよ。」

「何て言うかな。えーと、途中からお前みたいにプレーしたんだ。」


 何言ってんだこいつ、という表情になる侑司だった。


「ほら、お前みたいにスマッシュをどかどか打って、返されて拾いに行くの前提で。俺は普段もっと慎重にやるんだけど、今日はうまくいかなくて。お前がちらついて・・・・・・。」

「つまり、何だよ。」

 侑司は彰の言葉をぶった切って圧をかけた。彰がうう、と言葉に詰まったあと、しゅんと下を向いた。


「・・・・・・自分のプレーに自信をなくしたんだ。」

 

 しおらしく答える彰に、侑司は笑った。

「ははは!勝ったくせに何言ってんだお前!」


 真剣な悩みを一蹴されて、彰も頬を膨らませる。

「おい!笑うところか!こっちは落ち込んでるんだぞ!」


「あー馬鹿らしー。それじゃあ俺みたいにプレーした方が強ええってことだろ。そうしたらいいじゃん。」

 はい、それで彰の悩み終わり―。と侑司は両手を上げておどけた。


「お前みたいにやっても上手くいくもんか。強いスマッシュも打てないし、リーチも長くないし。」

「ちっさいもんなお前。」

 彰がムッとしたのも気にせず、侑司は続ける。

「そんなに器用にスタイルを変えれるんなら、相手に応じて臨機応変にしたら最強じゃん。」

「そんなに器用じゃないよ。お前みたいなスマッシュバカの真似くらいはできるけどさ。」


「お前もひでーこと言ってんじゃねーか。」

 侑司は彰を指さして笑った。彰も一緒に笑う。


「分かった!」

 侑司が唐突に手を叩いた。

「何だよ。」

「お前も負ければいいんだよ!」


「負けたらめっちゃ悔しいし、俺だってお前に狙われまくったからハイバック練習したし。」

 確かに自分が中学生の時、負けた後は悔しくて、必死に練習したものだ。

「でも、やっぱり負けるのはやだな。」

「ま、そーだな。」

 そう言って、急に侑司は笑った。

「なんだよ。」

 彰は顔を顰めた。


「いや、お前ってバドのことばっかだよな。」


「女の子のこととか、好きな音楽の話とか、くだらねえ話、全然しねーのな。」

 

「あ、ごめん。つまんなかった?」

 彰は申し訳なさそうな顔をした。


「楽しいよ。」


 侑司は白い歯を見せて笑った。


「学校の奴ら、そんな話ばっかだし、うんざりしてんだ。」

 侑司は上を向いて、本当につまらなそうに言った。

 

「お前も学校ではそんな話してんの?」

「俺、学校馴染めてないし・・・・・・。そういう話、できないからかもしれないけど。」

 彰が困ったような顔で答えると、侑司はまた笑った。

「くくく。俺も一緒のようなもんだよ。」



 俺がぼっちなの、何が楽しいんだよ、と彰はむくれて言った。



「お前ってさー。可愛い奴だよな。」


 そう言って侑司は悪戯っぽく笑っていた。


 そんなの、男に言う言葉か?こいつはやっぱり変な奴だ。彰はあらためて思った。ちょっとだけ、照れながら。

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