第6話 まるで初恋のごとく


 堀の強烈なスマッシュをネット際、右ラインぎりぎりに落とす。


 堀が慌てて拾いに行く姿が見えた。

 今度は入っていると確信できた。


 フワッと上がったシャトルを、思い切り打ち込む。攻守が入れ替わった。彰が主導権を握り、ポイントを取る。


「修正してきたな。」

 堀が感心したように呟いた。


 勢いづいた彰が点数を重ねていく。


 彰のスマッシュを堀が弾いた。

「ポイント、14―18。」


 周囲を囲む部員達も声を上げる。


 彰は少し息を吐いてスコアを反芻した。


 かなり詰めてきた。


 彰は手応えを感じていた。

 切り替えてから、スマッシュが驚くほどキレている。


(こいつ、ガンガン攻めてきやがる。)

 彰のプレーの変化に気付いたのは、金本を除けば相対している堀だけだった。


 普段の彰は、どちらかと言えばリアクション的なプレーをする。

 相手の攻撃を粘り強く返し、長短や強弱を丁寧に打ち分けながら、点を取る。

 

 対して、休憩を取ってからの彰は、隙あらばスマッシュを打ち、相手に強打を打たせようとしない。アクション的なプレーを徹底している。


 パン。


(流石に舐めすぎだろうが!)


 彰が右サイドから放ったスマッシュを、堀は読み切り、スマッシュを反対側に切る。

 完全に決まった。誰もがそう思った。


 しかし、彰も想定していたように動き出し、追いつく。


 足の伸びもいい。彰は感じていた。


 その後も彰が攻め、堀がかろうじて凌ぐラリーが続いた。

 彰も少しづつスタイルを変える。スマッシュを散々見せてから、柔らかく前に落とし、時に堀にスマッシュを打たせるよう正面奥に上げる。


 不意をついた彰のヘアピンが決まった。

 スコアは17対19。


 勢いは完全に彰だ。


 部員達が俄かに沸き立つ。

 堀がタオルで額の汗を拭った。


 試合の最中、彰は考えていた。

 スマッシュの時、侑司はどう打っていたか。あいつのように強く打つにはどうすればよいか。

 思考錯誤しながら打っているうちに、気が付けば良い結果になっている。


 それでも、あいつには遠い。スマッシュもフットワークも。堀を圧倒できなければ、あいつのレベルじゃない。


 まだまだ打ち込まなければ。

 彰はそんなことを考えていた。


 金本はじっと彰を見つめていた。

「相手を間違えるなとは言ったけどねぇ。まさか自分のプレーをそいつスタイルに変えちゃうなんて。」


「誰かさんね・・・・・・。司馬ちゃんがこうなるんだねえ。」

 どかりと椅子にもたれながら笑った。


「初めて彼氏ができた中学生じゃあるまいし。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る