33話「安らぎと真実」
33話「安らぎと真実」
柊は約束したことを守ってくれた。
いつも以上にお姫様のような扱いをしてくれ、そして体を心配してくれた。
お風呂から上がった後でも、風香は食欲がなく、そのまま寝る事になった。
風香が先にベットに入り、風呂に行った柊を待っていた。先に寝てしまうかもしれないと思ったけれど、頭が冴えてしまっているのか、すぐに寝付く事はなかった。
「起きて待っててくれたの?」
いつもより早く帰ってきた柊は、まだほんのり髪が濡れていた。風香を心配して、急いで上がってきてくれたのだろう。そんな彼を笑顔で出迎え「お布団を温めながら待っていました」と、言うと柊は笑ってくれた。
「さて、今日は俺も早く寝ようかな」
「お腹すいてるでしょ?食べてきてもよかったのに」
「いいさ。俺も少し興奮してるみたいで、何だか食欲がないんだ。それなら頭を休めたい」
「わかった。一緒に寝よう」
風香はそう言うと彼にすり寄り、柊の胸に体を埋めた。すると、嬉しそうに笑う柊の声が頭の上から響いてくる。
最近の日々は緊迫していたけれど、彼との日々は穏やかだった。けれど、その時以上に安らぎを感じられるのだ。それが、柊の言う「終わった」という事なのだろう。
まだわからない事が多い。
けれど、彼の事を信じて明日を待とう。
そんな風に感じていると、しばらくすると耳元に彼の寝息が聞こえてきた。
「………柊?………」
「…………」
柊は風香を抱きしめたまま、あっという間に寝てしまったようだ。風香の呼び掛けにも応じないぐらいに熟睡していた。
朝まで一緒に過ごすよと言ってくれていたけれど、まさかこうやって先に彼が寝てしまうとは思わなかった。普段も、寝入るは風香の方が先だった。それほどに、彼は疲れているのだろう。
風香以上に美鈴達の事を警戒し、影から風香を守っていてくれたのがわかる。彼は「守れなくてごめん」と、何度も言うけれど、本当にそんな事はないのだと、彼に強く伝えたいぐらいだった。
「おやすみ、柊。………大好きよ。また、明日」
風香は身動きが取れないので、顔だけを動かして、鎖骨辺りに小さくキスを落とした。そして、心地のいい温かさを感じながら、風香もすぐに眠りについたのだった。
夢は見なかった。
それほどに、熟睡出来たのだろう。感じたのは、隣の彼が動いたからだった。
「ん………柊…………?」
「ごめん、起こしちゃった?まだ寝てていいよ。俺もここに居るから」
「ううん。今はもう朝なの?」
「もうお昼過ぎだった。10時間以上寝てたみたいだ」
そう言って微笑みながら、柊は風香の頭を撫でてくれる。
風香は、心地よさに目を閉じて「おはよう」と彼にくっついていく。そして、「キスして欲しい」と言うと、柊は「喜んで」と小さく笑い、優しいキスを唇に落とした。それを何回か繰り返した後、風香の顔をジッと見ながら「おはよう」と、挨拶を返した。
「昨日の夜は……その、ごめん。俺の方が早く寝ちゃったよな」
「疲れてたんだから仕方がないよ。柊さんの寝顔見てたら安心しちゃった」
「ちゃんと寝れたか?怖い夢見なかったか?」
「ふふふ、大丈夫だよ。柊も大丈夫だった?」
「あぁ。お陰さまで熟睡出来た」
「じゃあ、よかった。じゃあ、ブランチにしようか。なんか、お腹空いちゃった」
「何食べる?」
「んー……ピザ!」
「朝から食べるなー。でも、まぁ、安心したよ」
風香の答えに、柊は楽しそうに笑った。
朝から食べ過ぎかなと思いつつも、昨日の夜から食べてないので、空腹だったのだ。くいじがはってるかなと、顔を赤くしたけれど柊は「よかったよかった」と頭をポンポンとしてくれた。
風香はベットから起き上がり、大きく腕を伸ばした。
「それに、お話をいっぱい聞くから沢山食べておかないとね」
「………風香ちゃん。わかっていると思うけど、楽しい話ではないから………」
「うん。でも、自分の事、そして柊の事………私たちに関係してくる人たちの事。知りたいんだ。どんな事実だったとしても最後までしっかり聞くよ」
「そうか………うん。わかったよ」
風香の強い言葉を聞いて、柊も表情を真剣なものに変えて頷いた。
それから2人は宅配ピザを注文し、ブランチなのに沢山の量のピザやサラダを食べた。たまには学生のような食事も楽しいねと話し合った。
柊と風香はとてもお腹が空いていたのか、2枚をあっという間に平らげてしまった。
そして、食後のコーヒーを淹れた後、2人はリビングのソファに移動した。
柊は背筋をピンッとさせて、少し俯きながら手に持ったコーヒーを眺めていた。風香には彼が今、なにを思っているのかはわからない。
けれど、全てを知った後、彼が悩んでいた事がわかるような気がしていた。
「少し長い話しになる。もし、君の体調がわるくなったらすぐに言って」
「わかった」
「じゃあ、話そうか。俺が君に話せなかった事を。とても心苦しい時間の事を………」
2人は持っていたコーヒーをテーブルに置く。
そして、柊は隣に座る風香の片手を握りしめた。それは風香を安心させるためなのか、自分の事を落ち着かせるためなのかはわからない。
けれど、風香はその手を繋いでいる今がある限り、何を聞いても大丈夫であろう。そう思った。
「風香ちゃん、君は………俺が記憶を失くしてしまい、それの原因がメモリーロスなのだと思っていた………違うかな?」
意外にも話しは重要なところからスタートした。
いきなり、1番知りたかったことを問い掛けられ、風香は驚いてしまう。そして、彼の口からその言葉が出た事に、風香は唖然として声が出なかった。
「しゅ、柊さん………それを知っていたの?」
「ごめん………君がそう思ってしまうだろうなとわかっていたし、それが1番の目的だったんだ」
「……目的………?」
風香は鼓動が早くなるのを感じながら、柊の瞳をジッと見つめた。
すると、柊は1度視線をそらしながらも、すぐに風香の目をしっかりと見つめた。
「メモリーロスを飲んで記憶喪失になっていたのは、風香ちゃんの方なんだ」
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