第6話 「うーんやはり冬は鍋だねえ」

 いただきます、と給食の時のように皆で「ごあいさつ」して食卓についた。総勢六人に、長方形のこたつはちょうどいい。


「うーんやはり冬は鍋だねえ」

「たまにはいいでしょう?」


 どん、とこたつの真ん中に二つの鍋が据えられている。長方形の遠い所に居る者にも取りやすいように、という配慮だが、はっきり言ってたとえそれがどんな形であろうと、取りたい奴は手を伸ばして取るし、そうでない奴はいくら近くとも取らないのだ。

 でまあ、一応二つの鍋には公平に肉と白菜が入っている。ただ肉の種類が違うだけだ。


「鶏がいいひとはこっち、ぶたがいい人はこっちですよ」


と鍋番が言う。

 FAVとHISAKAはあっさりと鶏側について、TEARはぶた側へ行った。P子さんは五秒ほど考えていたが、ぶた側に付き、MAVOはそのP子さんの様子を見て鶏側へ行った。


「では私はこちらですね」


という訳で上手く3:3になった訳である。

 大量の白菜とねぎ、しいたけにえのきといった具が浅手の大きな鍋にぐつぐつと煮えている。にんじんはきちんと花形をしていたし、しいたけのカサは十字に切れ込みが入っている。


「ポン酢あります? マリコさん」

「はいはい、でも自分で合わせて下さいな、こればっかりは好みの問題」

「あれ、マリコさんがそういうんだ」


 TEARがびっくりしたように言う。


「何ですか一体」

「ん? いや、やっぱり完璧主義のひとかと思っていたけど」

「場合によりますよ。鍋は基本的にいい加減なものなんです」


 何か違うと思うが、と聞いていたFAVは思ったがあえて口は挟まなかった。どうやらマリコさんにはマリコさんの料理に対するポリシーという奴があるらしい。


「それで今日は一体何話したの?」


 箸をつけながらFAVが訊ねた。近くにたいそうな量の音楽雑誌がある。


「まああの二人には、年末ライヴの際の飾り付け関係を」

「曲どーの、はあんたがいなくちゃどーにもならんから」

「あ、そ。新曲やるの?リーダー殿」

「新曲、ねえ」

「あの『EYES』、何処でお目見えさせるのさ」


 仮タイトル「EYES」はFAVが最初に聞いたPH7の音源で、新曲である。このバンドがお得意の速い曲ではない。バラードである。


「気に入ってんだから。どっかで出さないと」

「気に入ってるのはこっちも同じ。だけど出し時ってのがあるからねえ」

「だしは効いてますけど」


 のんびりとP子さんがだしこぶを引っぱり出す。


「うまみはやっぱり肉だね」


とTEARはぶた肉の塊を出す。


「……をい」

「だからさ、そろそろ出してもいーんじゃねえ? リーダー殿。イヴェントってのはいろんな客が来る訳だし、しかも『お祭り』時だからそうそう完璧なものである必要はない」

「そうかしらねえ」

「三ヶ所が今回のカギだったよね」


 MAVOも口をはさむ。


「そ。24・27・31。フィラメント・ベイ77・オキシドール」


 暗号を歌うようにFAVは日程と会場を暗唱する。そして付け足して、


「だいたい六曲がいーとこ」

「六曲かあ。カタログ状態だよな。でも夏祭りと同じじゃつまらねえ」

「だわね」


 TEARとHISAKAはうんうんとうなづく。考えてみれば、夏祭り直前にTEARと知り合ったのだ。


「でも全部新曲じゃ客は乗らないと思うな」

「それも一理ありますねえ」

「4:2ってところじゃねーの? 新曲二曲。間にはさんで、ラストはお馴染みのナンバーで」

「予定調和すぎるって気もするけど」


 リーダー殿は箸を止めて考え込む。


「三日全部同じメニューってのも嫌だし」


 嫌な予感がする、とメンバーズは思う。何かこの展開は前にもあった気がする。


「じゃこうしよう。クリスマスには二曲、27日には三曲、で大みそかには四曲」

「げげっ」


 反射的にTEARがうめいた。


「おいHISAKAっ、そんなに新曲あったか?」

「実を言うとない」

「二曲は知ってるわよHISAKA、『EYES』と『MERRY~』でしょ。だけどあと二曲……」

「まあストックは無くもないけど」


 あああったのか、と息をつく音が聞こえる。


「でもまだ原曲だからねっ。アレンジこれから」


 安堵のため息は絶望のため息に変わった。


「皆さんそろそろ煮えすぎてません?」


 マリコさんが眉間にしわを寄せた。

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