9分の4は恋

田島春

(even,sum20)

 これだけはどうしても避ける事が出来ない。

 まずはじめに注意しておくべき事がある。

 本当にこの題材、性癖が好きな方々に対してだ。

 そのような方には以下の行動を強くおすすめする。

 一つ、この注意書きを読んだ後このページを閉じる。

 次に、この作品の存在を綺麗さっぱり忘れる事。

 以上だ、今は理解できなくとも構わない。

 忠告はした。

 楽しんで頂けると幸いだ。




 いい匂いに鼻をくすぐられて目を覚ます。

 あの人が来てからというもの、僕は目覚まし要らずだ。

 階段を下りるとおはようと声を掛けてくる、その人。

 エプロンを付け、今日も朝早くから支度をしている。

 その後ろ姿にちょっとどきどきしながら、僕もおはようと返す。

 卓に付き、手を合わせる。おねえちゃんの料理は絶品だ。

 絶品なのは料理だけじゃない。

 顔とか髪とか、あと胸……とかなんて見てない絶対。

 こちらが食べる姿を微笑んで見つめてくる、それがどうにも恥ずかしい。

 でもこれのおかげで今日も学校に行こうって、思えるんだ。

 今日も一日、頑張ろうって。




 余白を埋めるために解説を書かせていただく事とする。

 無粋ではあるが、ご容赦いただきたい。

 できうる限り優しく、どういう扱いであるかを書いた。

 重くも軽い、そういう関係だ。

 意識していつつも、できうる限りそう見ないよう務める。

 そのいじましさが可愛らしい。

 是非ともその想いに気付いて欲しくなる。

 だがそれがどういう重さを持つか、まだ分からないというのも可愛らしい。

 軽さは扱いに出している。

 三食の初めを提供し、それを眺める姿。

 見守る優しさが出ている。

 そうやって見続ければ内心に気付いてしまうのか。

 あるいは見ていても気付かないのか、それが良い。




「ふわぁ……」

 授業中に間抜けな欠伸が聞こえる、前の席からだ。

 立てた教科書で口元を隠し、そして席は後ろの方。完璧、というわけだ。

 教師の視線がこちらを素通りしたのが分かった。お目こぼしされているだけだ。

 黒板に向き直ったのを確認し、俺はひっそりと前の女子に声を掛けた。

「……大丈夫?」

「あっ、うん。ちょっと寝不足で」

 振り向いた彼女の顔を見る。率直に言って、可愛い。

 他にも色々と好みの部分はあるが、ぶっちゃけると一番は顔だ。

「俺もさ、昨日の夜ゲームし過ぎて……そっちは?」

「私?私は、運動かな。ダイエットしてて……」

 もったいない、という言葉が出る前に教師の視線が飛んできた。

 続く怒声が飛んでくる前に俺は教科書で顔を隠す。

 彼女のクスクスと笑う声に、顔が熱くなるのを感じる。

 さて、次はどんな理由で話そうか。




 好きな女の子に話しかけたい男の子。

 最高の組み合わせだ。

 積極的にアプローチを行い、その結果ドジってしまう。

 しかし意外にも、そのドジが思わぬ好感を呼んだりだとか。

 そしてそうと分かってか、あるいは分からずか。

 恥ずかしがるその失敗で。

 気付いても気付かなくても美味しいシチュエーションだ。

 本人としては少し知れたけど失敗があると思い。

 しかし相手はそうじゃなく、距離が縮まっているかもしれない。

 共感を呼ぼうと必死に話題を振った感じも面白い。

 俺も俺もと繋げるが、おかしな事にそれとは違う事が共通してしまう。

 それはそれとして前を向いて歩こうとする姿勢。

 その前進を応援したくなる。

 明日は、あるいは明後日こそは。

 もしかしたら、今日この後。

 挽回のチャンスがあるかもしれないし、無いかも知れない。

 行く末は五里霧中だ。




「ただいまー」

「あっ、お帰りなさい」

 僕の前に現れたのはあられも無い姿をした義理の姉だ。

 いかにもお風呂上がりといった感じでバスタオルを巻いている。

「お風呂空いてるから、どうぞ」

「ちゃんと、服着なよ!」

 はいはい、と後ろから聞こえる声に、僕は勢いよく脱衣所の扉を閉める。

 脱衣所にはまだ香りが残っていた。

 少しの間見ただけなのに、しっとりとした肌を思い出してしまった。

 僕は首を振り、服を脱ぐ。

 洗濯機に入れようとして、回っている事に気付く。

 そこに入っているのは……いや、考えるな。

 僕は脱いだ服を脱衣所の床に叩きつけた。

「そういえば、下着あるー?」

「……無い」

 慌てて入ったものだから忘れていた。僕は扉を少しだけ開けて腕を伸ばす。

「もう、そんなに怖がらなくても良いのに」

「……ありがと」

 僕は義姉の言葉を無視してお礼だけ告げた。その様子に何故か無性に腹が立った。




 不意打ち。

 それは古くから伝わる効果的な方法。

 戦いに限らず、好意的な部分でも有効だ。

 しかもそれが意識してしまわざるを得ない相手からだったなら?

 答えは言うまでも無いだろう。

 振り払おうとすればするほど。

 もがけばもがくほど、苦しみは深くなる。

 そして苦しんだほど、想いが強まってしまう。

 もしかしたらそれは早とちりかもしれない。

 そういう考えを振り払えないほどに深く打ち込まれた楔。

 例えそれが本人の望まぬ形だとしても。

 そしてそれを受け入れる前提に立てば、これもまた難しい。

 相手はまるでそんな事を意識してないかのようで。

 そんな態度に腹が立てどもぶつける相手は居ない。

 そしてそんな姿を見られたくもない。

 風呂に入ってそれが消えるかと言えば、難しいだろう。

 むしろ浴室に入ってからが本番かもしれない。

 それはそうと、このシーンの設定は7月。

 夏も盛りで早めの風呂となれば。

 出た後の事も楽しく考えてしまう。

 それを期待してしまっていたりするのも面白い。




 振り返りは大事だ、勉学においても私事においても。

 今日の事を振り返る。

 特に念入りに復習するのは昼前の授業だ。

 どうにも終わり際が不味かった、ノート以外の知識が不足している。

 幸いにも聞くあてがあったのでなんとかなったが、そう何度も頼ってられない。

 その原因を思い出し、そしてそこから自然と連想してしまう事を思い出す。

 体育の授業、あれは反則だ。

 あのサイズで動いたら……まぁ大変な事になる。

 そのせいかあの娘も集中できなくて怒られていた。

 なんとも理不尽な話だ。

 かくいう俺は集中力バリバリだったが。

 ……いや、こんな事を思い出すんじゃない。

 復習、そう復習だ。

 でも体育や保健も復習が必要では?

 それはそうだが違う。なんにせよ今は違う。

 例えばだが、その後の事なんて思い出したら大変な事になる。

 二人一組は色々不味い、美味しいけど。というかなんで組んだ?

 あれはもう危険だ、本当に危険物だ。もはや犯罪では?

 集中、できない。むしろこういう時はあれだ、逆に徹底的に考えるんだ。

 そう思い出せ、あの感触を。素肌とか、服越しとか。

 集中力が……戻ってきた、これでバリバリに――

 そう思っていると、突然扉がノックされ。母から夕飯である事を告げられた。

 俺はいつの間にか手の中にあった紙くずを素早くゴミ箱に放り込んだ。




 少々お邪魔だったかもしれない解説も、これで最後となる。

 実際に見たそれではなく、思い出してでしてしまうというのはあるだろう。

 このような状況ではそれも已む無しだ。

 なにせ記憶したものの質が良いのならば、人によっては掛け替えの無い物だ。

 少々青臭いものを混ぜ込んだが、ご容赦いただきたい。

 このように振り返り、思い返すという行為をするという事そのもの。

 それがもう美味しいというのはあるだろう。

 忘れようとして忘れられるものでもなく。

 そして思い込めばどうかと言えばだ。

 人によっては罪悪感を得るだろう。

 人によってはむしろ、だろう。

 意識しているところにこのような劇物というわけだ。

 前のと違うのは、接触しているという部分だろう。

 今回はそこに焦点を置かず、思い出すという行為そのものに当てている。

 具体的内容はお察しくださいというわけだ。

 あるいはそれを秘めてしまおうとする事。

 漏れて抜け出さないように努力するのも、また良し。

 まぁ漏れてはいるのだが。

 そういう意味では、この後こそというのはある。

 ちょっと発散したら霧のように消えるのか。

 それとも、やっぱり澱のように残るのか。

 それはそうとこのような状況、まず9割方は気付かれているだろう。

 何の事とは、誰にとは言わないが。

 さてそれではお別れの時間だ。

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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9分の4は恋 田島春 @TJmhal

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