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ブリッジに戻るのは一瞬だった。ナノマシンがリアルとヴァーチャルのぼくらを常に同期してくれているので、リアルボディの意識を閉ざしてヴァーチャルボディを再起動すればいい。ただしアキにはヴァーチャルボディはないので、元通り声だけの存在になってしまうが。
「これがFTLの論文です。この航法技術は、通称『ケンタ・ドライブ』と呼ばれているそうです。船長、あなたのことですよ」
「え、ぼくのことなのか?」
はっきり言って、全く身に覚えがないのだが……とりあえず、論文を読んでみることにしよう。
……。
驚いた。
基本的なアイデアは、グラヴィティーノをかき集めて特定の条件下で高密度に圧縮し、相転移を起こさせて
そして、その燃料……というと語弊があるが……となるグラヴィティーノは、ダークマターとして銀河内にあまねく存在する。それはこの旅でぼくが自らの理論を検証したとおりだ。だから、この航法は銀河の中のどこでも使うことができる。
……。
参った。
ぼくはせいぜいダークマターを減速に使えないか、と思ったくらいだが、まさかそれを燃料にしてしまうとは……
いったいどんな奴がこんな途方もないことを考えたのか。ぼくはあらためて論文の最初のページを見てみた。
……。
ぼくがいた大学の研究室の、後輩じゃないか! 確かに彼は優秀だった。彼とは何度も物理の議論を交わしたことがある。とは言え決して仲は悪くなかった。
そうか。あいつがこの仕事を……
論文の最後の謝辞には、「この論文を尊敬する研究者、今は遠い星のかなたにいるケンタ・ナガサキに捧げます。彼のダークマターの研究なしにはこの論文はありませんでした」と書かれていた。
いや、ちょっと待て。それ、教授の仕事になっていたはずだが?
調べてみると、なんと教授は他にも同じようなことをやらかし、それがバレて大学と研究コミュニティから追放されたらしい。
……。
「船長」アキだった。「そろそろ戻らないといけません」
そうだった。リアルボディをいつまでも意識不明にしておくわけにはいかない。生命維持装置の酸素にも限りがある。
「そうだな。戻ろうか」
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