4

 エクスプローラー2号はこの星系で何度かスイングバイを繰り返し、その過程で炭素質の小惑星を一つ捕まえていた。それを材料に、ナノロボットがカーボンナノチューブによる数万キロメートルにわたるケーブルを作成していた。b星の静止衛星軌道上にいる船から惑星表面までケーブルを垂らし、それをつたってキャビンを移動させる。簡易軌道エレベーターというか、軌道ケーブルカーとでも言うべきものだ。ぼくらはそれを使って、b星の地表に降り立った。


 b星は地球の1.5倍の質量。海はない。大気の主成分は窒素とアルゴン。気温と気圧はいずれも地球と変わらないか若干高い程度。酸素がないから生命維持装置は必要だが、密閉されたヘルメットさえあれば、宇宙服もいらないくらいだった。


 見渡す限り、茶色の岩石質の平原が広がっていた。空は青く、雲一つない。


「なんにもないね」


 思わず陳腐な感想を漏らしてしまった。


「そうですね」


 そう応えたかと思ったら、隣にいたアキが、いきなり前のめりにバタンと倒れる。


「お、おい! どうした、アキ、大丈夫か?」


「すみません……」


 ヘルメットの中のアキの顔は、苦しそうだった。


「ずっとゼロGの環境だったもので……いきなりプラス1.5Gがかかったせいで、体が悲鳴を上げてしまいました……」


 なるほど。ヴァーチャルワールドで1G環境にいたぼくは、少し体が重くなったかな、と思うくらいで特に支障はないが、そもそもずっと肉体がなかった彼女にとって、いきなりの高G環境はきついのだろう。


「それじゃ、ぼくにつかまって。ずっと寄りかかっていたらいいよ」


「はい……ありがとうございます」


 ぼくは彼女の手を握って立ち上がるのを助け、さらに肩を貸すようにして彼女の体を支える。


 ……。


 なんだろう。


 こんな感じ、ずっと忘れてたな。すぐとなりに人がいる感覚。彼女の重み。


 だけど、なんか悪くない。


 その時だった。


「船長、あれは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る