約束よ
「私の言った通りでしょう。黒猫は不幸を運んで来るのよ」あっちゃんは遠くの景色を眺めながら呟いた。
先日の地震は結構大きくて、あちらこちらで被害があったそうだ。幸い、死者が出たという話は聞いていないけれど……。
この病院の屋上から町の様子を見ても所々ブルーシートが被せられた家が目立つ。
「でも、地震がモグのせいだって決まった訳じゃないよ」僕はあっちゃんの言葉を否定した。モグのせいで地震が起きたなんて思いたくない。
「でも、これからも不吉な事が起きるかも知れないわよ。ゆうちゃんに嫌な事が起きたら私も嫌だし……」あっちゃんは心配そうに僕の目を見つめた。少し茶色く大きな綺麗な瞳であった。彼女に言われると少し不安になった。
「ありがとう、でもモグは……、大丈夫だよ」僕はその不安を振り払うように自分に言い聞かせるように返答をした。
「まあ、黒猫の事はもういいわ。今月の15日に花火大会があるの知ってる?」突然彼女の話題が変わったので驚く。毎年、8月15日は港のほうで花火大会が行われるのは知っていた。この界隈では有名な花火大会で近隣の他県からも見物客が押し寄せる。小さい時より体の弱い僕は一度も見たことは無かった。
「うん、そうだね。この辺だったら一番大きな花火大会だよね」見たことは無くてもその存在は知っている。
「前に話した、あの海が見える方向があるでしょう。この屋上から当日あの方向を見ると花火がよく見えるそうなの。私、たぶんその頃も退院出来ていないと思うから、一人で見ても面白くないし、ゆうちゃん私とここで一緒に花火を見てくれないかな?」あっちゃんは、少し恥ずかしそうに僕を誘った。
「いいよ!僕も花火大会見たいけれど人混みは苦手だから、ここで一緒に見よう!」僕はもちろん快諾する。
「嬉しい!きっとよ!絶対約束は守ってね!」首を傾げて彼女は可愛く微笑んだ。
「うん、分かった!」僕は8月15日が早く来ないかなと待ち遠しく思った。
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