地震

 体調が良くなったので、久しぶりに学校に行くことになった。でも、正直いうと新学年になって早々に病院に入院した僕には友達といえるクラスメイトがいない。


 そんな僕が出掛けていく姿を心配そうにお母さんとモグが見送っくてくれた……ような気がした。


「おー、前田!久しぶりじゃん!」教室の自分の席に座っていると女の子が声をかけてくる。


「どうも……」なんだか気後れしてろくに挨拶も出来ない。


「私の事、覚えている?昌子しょうこ篠原しのはら昌子しょうこよ!」えらくグイグイ懐に入ってくる女の子に気後れする。


「ちょっと、昌子ちゃん!前田くんビックリしてるよ」隣にいる女の子が助け船を出してくれる。


「ああ、こっちはまどか!覚えてる?」覚えていない。


「ごめん、ちょっと覚えていない……」僕は正直に答えた。


「ガーン!ショック!!」昌子というクラスメイトはコメディアンのように大きなリアクションを見せた。


「もう、昌子ちゃんたら……」となりのまどかという女の子がクスクス笑う。

 僕も釣られて笑ってしまった。


「そう、それよ!笑う門には福来たる!」昌子は中学生とは思えない突っ込みを入れてきた。


「ありがとう……」自然とその言葉が口から出た、彼女達は優しく微笑んでくれた。


 他のクラスメイトも皆、親切であった。授業の解らない所を教えてくれたり、昼休憩の時には一緒に弁当を食べてくれたりして、思っていたよりも学校って楽しい所なのかなと嬉しくなった。


 放課後の帰り道、昌子ちゃん、まどかちゃん、そしてもう一人美穂ちゃんと帰り道の方向が一緒だったので四人で帰る。

 昌子ちゃんはムードメーカーで、体を張って笑いを取るタイプのようだ。ずっと見ていても飽きない。


「あっ、黒猫!」目の前を黒い猫が横切り、塀の上に登った。


「あれ、モグ?」その猫はモグに似ていた。逃げようとするその猫を追いかけた。その後ろを三人もついてくる。


「よく言うよね。黒猫が横切ると不幸な事が起きるって……」美穂ちゃんがその言葉を口にした途端に大きく地面が揺れだした。


「なっ、なに!」


「じ、地震だ!」僕達は道路の真ん中に集まって固まるように手を繋いだ。縦に激しく揺れる地面、目の前の塀が突然倒れた。


「きゃー!誰か助けて!」まどかちゃんが悲鳴をあげる。


「大丈夫、大丈夫だよ。ここは道幅が広いから!」僕は彼女達を庇うよう体で覆った。

 しばらくすると地震はおさまった。


「あー、良かった」美穂ちゃんが安堵の溜め息をつく。


「でも、見かけによらず、あんた男だね!」昌子ちゃんは思いっきり僕の背中を叩いた。咄嗟の事で正直、僕も自分の行動に驚いていた。


「でも、やっぱり黒猫が横切ったせいかな……」まどかちゃんはポツリと呟いた。


 モグによく似た猫がいた場所をもう一度見てみたが、そのにはすでにその姿は無かった。


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