女たらしの巫女~雅華神社物語2~

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雅華神社の女たらしな巫女

 倭国わこくにある雅華神社まさはなじんじゃには、百人に上る巫女達が住んでいるが、異性との交流が禁止されているが故に、彼女達の中では欲求と言う欲求が溜まりまくっていた。


 大半の巫女達は同じ巫女達と親密になることが多く、自然、雅華神社のいたる所では巫女達が戯れる光景が見られた。


 霊力取り込みと呪術行使の効率化の為に、肩や谷間が露出し、お腹を惜しげもなく見せる白衣、太ももからひざ下が露わになる程の切れ込みの入った緋袴という際どい巫女装束で絡み合う巫女達の姿は、非常に魅力的だった。


 そんな雅華神社の中でも、特に麗しいと評される巫女がいる。


「見て、れん様よ」

「お美しいわ……♡」

「本当に、女神様のようだわ……♡」


 彼女を見るや否や、巫女達が口を揃えて美貌を称えた。この年二十一歳になる巫女・恋は、長い金色の髪を後頭部でお団子にし、真紅の櫛で纏めている蒼い瞳の美女である。そして雅華神社内でも随一の美女である。


「ごきげんよう、恋様」

「ごきげんよう」


 通りがかった巫女に挨拶をする恋。しかし同時に彼女は、巫女の露になったお腹を撫で始めた。


「あっ……♡」

「あなたはここを撫でられると、相変わらず弱いわね~」

「そ、それは……♡」


 突然のことに戸惑いながらも、くすぐったさに悶える巫女。


「れ、恋様ぁ~♡」

「羨ましいわ~♡」

「私も恋様に……」


 一連の光景を目の当たりして、三人の巫女達は羨ましそうに見悶えていた。


「ふふっ、あなた達もしてあげるわよ♡」


 すると恋はそれを見逃さず、お腹を触っていた巫女に別れの挨拶をして彼女達の下へ向かった。


「あ、あの……」

「ふふっ。いい子ねぇ~♡」


 恋は右の巫女を抱きしめた。


「れ、恋様ぁ~♡」

「寂しかったんでしょ~♡」

「そ、そうですぅ~♡」


 巫女は頬を紅潮させ、目をとろんとし始めていた。


「れ、恋様、私もっ!」

「慌てないの♡」


 そう言いながら恋は、求めてくる真ん中の巫女の緋袴の切れ込みから露になっている太ももを触り始めた。


「恋様……」

「ふふっ、本当にここを触られるのが好きなのね~♡」


 優しく撫でる手つきに、巫女はくすぐったそうだった。


「勿論あなたのことも忘れてないわよ~」


 そう言いながら恋は左に立っている巫女の緋袴の切れ込みから露出した太ももを触り始めた。


「安心する?」

「は、はい……」


 太ももを揉む恋の手つきに、巫女は全身の力が抜けそうになっていた。


「みんな本当に可愛いわ~♡」

「「「れ、恋様ぁ~♡」」」


 あっという間に恋は三人の巫女の心まで鷲掴みにしてしまった。彼女は雅華神社随一の美貌の持ち主だが、同時に神社内で一番の女好きなのでもある。


「可愛かったわ、三人共。ごきげんよう」

「「「ご、ごきげんよう~♡」」」


 熱い視線を受けながら、恋は彼女達に手を振りつつ立ち去った。



――――――


 昼時になり、食堂には多くの巫女が集まり始めていた。当然、恋も昼食をとる為に来ていたが、彼女の目的はそれだけではなかった。


「はぁ、恋様がいらっしゃったわ~♡」

「私は今朝、恋様と触れ合ったわ♡」

「私は昨日、触れ合わせていただきましたわ……♡」

「私は昨夜に熱い口づけをされました……♡」


 恋の姿を見て、口々に彼女との尊い時間を思い出す巫女達。


(本当に可愛いわね~。午後の空き時間はどの子と戯れようかしら……♡)


 そう思いながら列に並ぼうとする恋。


「また変なことを考えてるわね?」


 すると彼女の前に並んでいた肩まで届くゆるやかな蒼い髪の巫女が、振り返るや否や恋に呆れながらそう言った。


「変とは、ちょっと語弊があるのではないのかしら? 涼音すずね

「またあなたの愛撫に陥落した巫女が出たって聞いて、ちょっと不安になっただけよ。雅華神社の巫女達は、ことごとくあなたの愛人になってしまうんじゃないかって」

「そこまではしないけど、可愛い子がいたら、触りたくなっちゃうのよ」

「確かにこの神社は女しか入れないから、女同士の関係に目覚めてしまう巫女は多いけど、少なくとも既に二十人はあなたのせいで目覚めたみたいね」

「ふふっ、みんな私と戯れるのが好きみたいね」

「まったく、あなたときたら……」


 涼音は額に手を当てながらやれやれと言わんばかりの表情になった。彼女は恋の同期であり、寮でも同室の巫女だが、恋に魅了されることが多い巫女達の中でも例外的に全くその手の誘惑を受け付けない女性である。


「この間も、街の女の子の何人かが、あなたと戯れたって聞いたけど……」


 涼音はそう言いながら、恋と共に昼食の定食を受け取って適当な席に彼女と対面するように座った。


「彼女達の方から来たの。私とお茶したいって」

「……お茶をしただけなの?」

「どうしたの?」

「一週間前も、あなたと街の女の子たちが戯れてるとこを見た巫女がいたけど?」

「私は可愛い女の子と達と触れ合えるのが何よりの楽しみなの」

「本当に女の子が好きなのね……」


 涼音は頭を抱えた。恋は可愛らしい女の子を見かけるとだれかれ構わず手を出そうとする悪癖があり、度が過ぎた場合には常に彼女が抑え役を担っているのだ。


「この後巡回があるけど、あんまり女の子達と深く関わっちゃダメよ。また勝手をされて街の子達に手を出されると困るから」

「ええ~いいじゃなぁい。可愛い子達は嫌い?」

「嫌いじゃないけど、程々にしないとってことよ」

「私が向こうから誘われたらどうするの?」

「度が過ぎたら私が止めるわ」

「私の女の子への勢いは、今のあなたでも止められないと思うわ」

「あまり褒められない自信ね……」


 呆れる涼音は更に頭を抱えた。


「ふふっ、巡回でどんな女の子に出会えるのかしら~。ひょっとしたら外国の可愛い女の子も来てるかもしれないわね~♡」


 涼音の心配もどこ吹く風の恋。


「そうそう、さっきあなたは今の自分を止められないって褒められない自信を持ってたけど……」

「んん~? あら?」


 恋が振り返った直後、涼音の姿はなく、気づいた時には彼女に背後から抱き着かれていた。瞬間移動の如き見事な体術である。


「ちょ……」

 

 戸惑いが収まらない中、涼音は右手で彼女のお腹をくすぐり、左手で太ももを揉み始めた。


「ちょ、ちょっと……」

「あなたの弱点は、お腹と太もも」

「ちょ、すず、ね……♡」


 鋭い眼差しで口調も冷たかったが、涼音は容赦しなかった。


「ど、どうし、て……」

「恥ずかしかったけど、あなたを止める為の手段としてはこうするしかないって思ったの」

「そんな……んはっ♡」


 予想外の涼音の反撃に、恋は完全に力が抜けてしまい、その場に跪いてしまった。


「も、もう、いいでしょ……♡」

「観念した?」

「は、はいぃぃぃ……」

「これくらいのことをすれば、あなたも止まるでしょ? って……」

「す、涼音ったら……」


 恋は完全に身体がへなへなになってしまっていた。


「ちょ、ちょっと恋っ!」


 この瞬間、涼音はこの後の巡回のことを思い出した。恋の好き勝手を止める為の行動だったのに、度が過ぎてしまって彼女がこの後使い物にならなくなる可能性があることを、うっかり忘れてしまっていたのだ。


「大丈夫?」

「う、うん。でも、確かに今のあなたなら私を止めることが出来るわね。と言うよりは……」

「えっ?」

「私の方が、あなたに夢中になっちゃったわ……♡」

「……あら?」


 涼音は自分でも予想外のことをしてしまっていた。多くの女子を虜にしていた恋を、自分自身が虜にしてしまったのだ。

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