第4話姫の救出劇 Ⅱ

「いやあぁぁぁ―――!!!!」




 森の中に、少女の悲鳴が上がった。


「遅かったか!?」

 焦りながら、森を駆け抜けその場所にたどり着いた。男が5人…いや、7人か?物陰にも一人隠れていた。


 一人が少年騎士を押さえ付け、馬車に乗り込んだ一人は、レティシアを馬車から引きずり出そうとしている所だった。


 まだに、及ぶ前であった事に安堵し、矢をつがえ放った。


 狙いを定める。

 正確に定めて、弓を引き絞る。

 キリキリとした音が耳のそばで鳴り、丁度のタイミングで、手を放す。


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!


 続けざまに3本撃ったところで、矢が切れた。


「ぎゃあっ!」「ぐわっ!」「ぐぇっ!」


 一人は少年騎士を押さえ付けている男に、一つは、レティシアに手を伸ばす男に、もう一つは物影に隠れる男に放つ。


 そして、馬ごと飛び出し、男達の中に割って入った。

 レティシア姫を庇う格好に割り込んでいき、男達を一瞥する。


「いたいけな少女に良い大人が、何をしているのかしら?」


「っの、アマァァァ!!!!」


 怒りに満ちた、男達が、大剣を片手に降り上げて襲いかかる。


 突然の乱入者に、仲間を3人も倒されたのだ。怒らない訳がなかった。


 けれど、怒り狂い、冷静さを失った者ほど、その動きは荒くなる。鍛練を積めば、怒りはより深い冷静さをもたらすことも有るけれど、この男達は、だ。


 馬から飛び下り、駆け出す。大剣を振り上げた男の脇をすり抜け、抜け際に、両の足の腱を切りつけ動かなくする。

 次いで、男の背後から袈裟懸けに切りつけ、残るは、後二人になった。


「なっ、何だ!お前はっ!?」


「おっ、女…女の癖にっ…!!」


 男達の動揺は明らかだった。

 続け様に仲間が5人も倒されているのだ。

 しかも、相手は小娘程度の女……。しかし、侮るのは危険な、女だと言うことは、今の状況からして至極当然。


「倒れた仲間を連れて、引き下がる?…無理よね。過半数割れだもの。なら、ここで後を追う?」


「き、貴様ぁぁ――!!」


 男が斬りかかりに来る。反対側の男は、チェーン?鎖を降ろし…そして空中に廻し始めた。


 成る程、連携か…?

 鎖で、縛ろうと言うのか。


 なら、ここは乗ってやるか?


 斬りかかろうとする男に向かい合い、剣を構える。



 その時、宙を舞う鎖が私に伸び、剣を持ったままの手首毎、絡めとった。


「へっ……へへっ、流石に油断したな…お前は嬲りながら、犯しながら、生きていることを後悔させてやる!!」


 手首か絡められ、ビンッと伸びた鎖に腕が引っ張られる!

 体の向きが、鎖を持つ男の方に引き寄せられ、剣を降り上げていた男は、後ろから膝裏に蹴りを加え、私を転倒させた。


「あぁっ!!」


 倒れたところで、腹に数発の蹴りが加えられ、その鈍い痛みに思わず声が上がる。


「がはぁぁっ…!!」


 私の手から剣が離れ、戦意喪失と見なしたのだろう。男は、私の一つに縛った髪の束をグッと鷲掴みにし引っ張った。その顔を確かめると、ヒヒヒヒッと、卑猥な嗤い声を洩らした。


 この男……未だで、直ぐにでも合流出来るとでも思っているのだろうか?

 普通なら、私の置かれたこの状況は、直ぐに殺されていても不思議ではない。

 なのにこの男は、私を直ぐには殺さず、嬲り者にして、凌辱の限りを尽くそうと気色の悪い事を考えたようだった。

 余程の余裕がそうさせるのだろう。

 無理もない。ファルファラ公国の騎士の戦闘能力は、この男たちよりも劣りそうなものだったし、多勢に無勢の今の状況だ………。



 ◇◇



『団長は、強すぎるから、少しぐらい隙が有った方が、受け入れられやすく成りますよ!』


 団員の一人に言われてのこの状況なのだか、私が痛いじゃないか!!


 帰ったら、アイツは殴っておこう………。



 ◇◇



「散々手こずらせやがって……でも、よく見ると……お前も良い女だな…むしゃぶり付きたくなる良い女だ。少々お痛が、過ぎたから、嬲って、嬲って、嬲り捲って生きていることを後悔させてやる!!」


 『地獄を見せてやる…』と、耳元で、怒鳴り付けるその声は、先程までの恐怖より、これからの狂気が、勝ったような響きが隠っていた。


 レティシア姫に続き、もう少し年上の、花の開花したばかりの女―――。

 痛ぶり、嬲り、蹂躙し、有りとあらゆる快楽を享楽を悦しもうとでも、言いたいのだろう。


 体を無理矢理抱き起こされ、胸当の留め具が外された。両の手が胸当てと服の間に滑り込ませてきた。

 そして、厭らしい手つきで胸をまさぐり始めていた。

 その慣れない刺激に思わず声が上がる。


「んんんっ………!」


 私の漏らした吐息に興奮したのか、耳元で男の吐く息が、先程までとは違う息遣いに変わり出す。


「へへへっ、良いだろ?ここで可愛がって遣ろうか?」


 はぁっ、はぁっ、と、耳元に吹き掛けられる男の吐息が……吐き気を催すほど気持ち悪い。


「…お、……おい!遊んでないで……手当てを……」


 地面に倒れた仲間の男が、手当てを求める。

 だが、この男達の間に、有事まで続く情など介在しなかったようだ。


 ザシュッ……!!


「き、…さ…ま…ぐっ…!」


 私から離れた男は、仲間の息の根を止めた。



「対した仲間意識ね」


 そう言うと、何事もないかのように、男は答えた。

「仲間?そんな者ここにはいねぇ、殺られたらお仕舞い。それがここのルール、この世界だ!!」


 成る程、足手まといは要らない。致命的な怪我を負ったら、賊としては終わり……か。


「中々、良い心意気ね」


 その言葉に、男の眉がビンッと跳ね上がり、怒鳴り付けてきた。

「元はと言えば、お前が襲ってきたからこんなことに成ったんだろう!?」


 ズカッ、ズカッ、ズカッ、と足音を立てて歩み寄ると、ガシッと頭を掴み後ろに引いた。


「あぅぅっ…!」


 高音の声が上がった。


 男は歪んだ喜悦混じりの顔に成り、再び耳元に顔を近付けて語った。


「お前は殺さない…簡単には殺さない、生きてる絶望と死ねない恐怖の地獄のドン底を生きさせてやる」


 勝利を確信し、歪んだ欲望の対象なのだと暗に示して、恐怖の淵にでも、落とそうと言う魂胆なのだろう。




「姫――!!」


 二騎の騎馬が、この場に駆け付けた。

 先程残してきた、騎士達だった。


 倒れた幾人かの男達…。そして、ピンッと伸びたチェーンを手にした男と、その先の両手首を拘束された先程の娘…リディア。更にそのリディアに、厭らしい手を伸ばし始めたと見える賊の男……。


 状況を見たジェイスは、彼女が油断したのだと悟った。


 先程のは、まぐれか奇跡。これが年相応の結果と言うものか……。



「その娘から離れろ」


 視線で、エドに姫を連れて離れるように指示を出す。

 レティシア姫の親衛隊隊長、ジェイスの出現に、はっとなったエドは、そっとレティシア姫に近寄り、その場から離れる。


 エドの動きには、賊の二人も気付いていたが、今は新たに現れた二人の騎士が、先決だった。


「動くなっ!動けば、この女の命は無いぞ!?」


 先程まで、人の胸を揉みしだこうとしていた男は、一転して私を人質にこの場を切り抜けようとするらしかった。


 男の腕が、腰にがっちりと廻され男の体と密着する。


 うん、臭い……体臭が。


 年の頃は、大体30代半ば~50代がこの場は多いかな?死んでるけど。

 そして、私を人質にしているこの男は、40代位。チェーンの男は、30代半ばだろうか?


「くっ人質に取るとは、厄介な!!」


 ジェイスは、顔をしかめて状況の不利を悟る。


 この状況、確かに厄介ね。自分で切り抜けるか、もう少し状況を見守るか……。


 カランッ。


 ジェイスと連れの騎士は剣を手離し、降参を示した。


「!?……。へへッ、中々に頭の良い騎士様達だなぁおい!……お前、見捨てられたぞ?」


 男の言葉に、チェーンを掴む男もニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「帰ったら、たっぷりと楽しませてくれよな」


 男の隠った声が耳に吹き掛けられる。


 私の手から、剣が抜かれ、遠くへ投げ捨てられた。

 そして、私の栗毛の愛馬、ラクセスに騎乗して帰ろうと言うのだろう。鎖の男が、ラクセスに近寄る。


 しかしラクセスは、嘶きを上げてその足を鎖の男に降り下ろした。


 ドカッ……!!


 額を蹴り飛ばされた男は、その衝撃で首の骨でも、痛めたのか地面に伏したまま動かなくなった。


 最後の仲間の死で、背後の男に再び動揺の色が濃くなった。


「あ、あ、あっ………!?」



 もう、何を言って良いのか分からないのだろう。


 人質の私を連れて逃げる?はっきり言って、足手まといだし、馬を騎士に連れてきてもらう…にしても、受け渡しには、必ず隙が生まれる。




 さて、残ったこの男はどう出るのでしょう?












 A、私殺そうと、でした!




 身を、地面スレスレに鎮め、手首の鎖の垂れ下がった余分に魔力を流し男の剣を持った手首に絡める。引き落とす、反動を利用して私は刃を交わし、状態を戻す。


 男は、バランスを崩し地面にひれ伏した。


 すかさず剣を手にしたジェイスによって、絶命させられた。



「大丈夫ですか?」


 騎士は、私の両手の鎖をほどきながら訊ねた。


「少し、油断しました。……情けない」


「よく頑張りましたよ。お陰で私は命拾い出来ましたし。あ、俺ノアって言います」


「ノアさん、ありがとう。ちょっと結構、かなり……恐かったから、本当に助かりました」


 よし、我ながら恐怖に怯える女性の姿をキッチリ演じれてるよね?

 これで、さっきの強者振りはだと誤魔化せる筈だ。


 ジェイスは、避難している姫と若い騎士とを呼びに森の中へ出ている。

 程なくして、ジェイスと共にレティシア姫と若い騎士が、戻ってきた。



 レティシア姫は、余程の恐怖を味わったのだろう。危険が無いと安堵したら、堪えたいた涙が溢れ出し、止まらない時間が続いていた。




 何はともあれ、共に無事を喜び会うのだった。

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