第15話
遡ること金曜日の夕方。
(月詠に、もう一度会わなきゃ。)
学校からの帰り道にまた桜並木を通って帰ろうかとも思ったが、昨日の今日だし、家族にも止められていた。いくら穢れを祓ってもらったといっても、崖っぷちを危うく逃れただけの自分である。また外れくじを引くんじゃないかと考えると、面倒ではあるが人通りのある街道沿いを歩いて帰るほうが安全策に思えた。
(スマホで連絡とれたらいいのに。「今なにしてる?」って…)
「ちょっとももさん、月詠様を呼びつけようなんて大それたことを考えるんじゃありませんよ。」
突然話しかけられて、ももはびっくりして一歩飛び上がった。しかも心の中を覗かれているらしい言葉、完全にデジャブである。
「はいっどちら様で!」
思わず小声で叫ぶ。ざっと周りを見渡すものの、こちらに話しかけてくるような人はいない。皆、それぞれの家へ向かうばかりだ。
「ももさん、ちょいとこっちへいらして下さいな。」
はっきりと声は聞こえるのに姿は見えないままで、ももは当惑する。
「こっちって言われても、あなたどこにいるの?」
俯きがちに顔を伏せて、目だけで周囲を窺う。小声でもおそらく聴こえているだろうと予想した。だって心の声も聞こえるのだから。
「あーあ、輪廻だけして覚醒してないってのはこういうことなんですねぇ。鈍いったらぁ。」
またも謂れのない中傷のような言葉を受けて小さくイラッとする。前世がなんであろうが、自分はつい最近まで神も仏も同じもののように手を合わせていたような、信心も霊感もない人間である。
「知るか!さっさと出てきなさい!」
小さくポンっと音がして、黄金色のフワフワしたものが目の前に姿を現した。ピンと尖った耳、小さな顔は鼻筋がスッと通って、細長い四本の足は先に行くにつれて真っさらな雪を纏ったかのように白くなっていく。
これはあれだ。しかし、残念なことに私は都会育ちで、実物を見たことがない。
「あなたあれでしょ、ごんぎつね。」
「そりゃあお伽話でしょう!」
「あ、わかった!こぎつねこんこん。」
「童謡か!私は」
「えっキタキツネ?ホンモノ?」
「わたしゃ
「え、なにそれ。」
「キェェェッ!早よついて
そう言って黄金色の狐はプンスカしながらピョンとひと跳ねして向きを変えると、音もなく歩き出した。口は少々悪いが、フワフワ揺れる尻尾は、毛並みの良さも相まってとても可愛らしい。あとでちょっと触らせてもらおうと思いながら、続いて歩き出す。
月詠様とか言っていたから、ひとまず話を聞くだけは聞いて、こちらの要求が通るか確認してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます