アリかキリギリス

第14話

 朝から気持ちのいい秋晴れが広がる土曜日。

 なのだが私は今、人知れず一大決心を胸に、ターミナル駅に繋がる地下街にいる。ガヤガヤと様々な音が入り混じって行き交う中に、そっと意識を集中させる。


(あー、これ?)


 右手の人差し指をクルクルと小さく回して、綿あめを絡めとるようにソレを手繰り寄せる。手もとに集めてみるが、目ではっきりと認識できるわけではない。ただ触覚と聴覚は視覚よりもそれに敏感なようだ。仄かに生温かく、しばらく手元に留めるうちにじっとりとまとわりついてくる。小さな虫の羽音のような、遠くに聞こえる金属音のような、落ち着かない響きが耳をかすめた。


(この感覚、あの時と似てる。)


 しばらく前に、月詠と一緒に歩いた杉並木の途中で、身体がどんどん重くなるように感じた記憶を思い出す。


(これが、穢れかぁ…)


 あまりにもそこら中にありふれている。穢れというものをなんだか分からないけれど怖いと思っていた少し前の自分が、ちょっと滑稽に思えた。

(ふうん…初めてにしては、私上手じゃない?) 

 だけどやりすぎは禁物。神様の言う通りに、少しだけ、穢れ集め体験である

 そっと一つ深呼吸をして、もう一度同じ作業に取り掛かった。

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