第12話

 水面から出た感触があって、それからふわりと地面に降り立った。自分の体の動きとは反対に、水は引き寄せられるように水面へと戻っていく。全身が濡れていないことに気がついて、神様の力って便利だなぁと感心する。


 振り返ると、そこには来たときと変わらない静かな水面が広がっている。真ん中あたりに丸い月がぽかんと浮かんで、ゆらりゆらりと煌めいた。


「うん、きれいに祓われたな。」

 振り返ると、金の草地に月詠が立っていた。

「あなたねぇ!」

 ももは積もる文句を遂にぶつけてやろうと勢いづいて、それからあることに気がついた。月詠が水面を見つめてため息を小さく溢したのだった。


(私と龍神さまが会えるように、わざと、だったのかなぁ。)


 ただ手足を浄めるだけなら、龍神さまに会わずとも済んでしまう。しかし月詠は、百襲の姫が龍神さまに会いたいだろうと計らったのではないか。姫は恐らく、いや疑いなくそうだったのだ。私は間違いなく再会の喜びを感じていた。記憶はないけれど、感情は感じ取れるようだった。


「びっくりした、もう。」

 トーンダウンしつつ一言くらい言ってやろうと零れた一言に、月詠は苦笑いのような表情を浮かべて返事をした。

「顔も見せないとは、困ったものだ。」

「… 」


 ざぁっと風が吹いて、草地がざわざわとさざめいた。

「ふふ、そうだな。」

「え?」

「さぁ、そろそろ帰ろう。手を出して。」


 ももは言われるがまま両手を出した。月詠がそれをとると再び光に包まれて、水面も草地も、一瞬に遠ざかっていってしまった。

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