第10話

 もう渦の方はどうでもよくなって、龍神さまに何か話しかけたかった。しかし何と言っていいかわからない。もじもじしているうちに、渦がまた話し始めた。そういえば、これが勢の姫なのか。

「まあ!これは龍の君、お久しゅうございます。」


 心なしか更に渦から遠ざかった。

「まあ!そんなに遠ざからなくっても!」

 しかし返事はない。

「何度も申しておりますが、わたくし謝りませんわよ。わたくしはこの娘が吾が背の妻となったから、わたくしの役目を果たしただけですわ。やっと輪廻したのですから吾が背のところに連れていきますのよ!よろしくって?お聞きになりましたわね?連れていきますからね!!」


「もはや過ぎ去りしこと、私とてそちらに思う所も無し。心の向くまま、自由になされよ。」

 渦が一瞬ぶわっと拡がってから、すっきりと形をまとめて真っ直ぐになった。心なしか赤く見えるのが不思議だ。

「それではご機嫌よう、龍の君。それからお前!もも。」

「はい?!」


 急に話を振られて思いのほか大きな声が出たが、勢の姫は気に留める素振りもなく、ただ何故か上機嫌な様子でこう言った。

「別に加護を与えたわけじゃありませんけれど、ここまで共にあったのは事実ですからね。この先どちらに転ぶかはお前の心次第です。行先は自分で決めるもの。わかりましたね?」

「… はぁ。」

「よろしい、励みなさい。」

 最後の言葉とともに渦は勢いよく巻きあがって、すっとたち消えてしまった。


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