神様は引きこもり

第8話

 膝丈ほどの草原をかき分け、月詠に続いて湖のほとりに立った。ざわざわと草を揺らす風に包まれる。月詠の静かな声が、凛と響いた。


「龍神、来たぞ。」


 変わらず草地はざわざわと騒いでいる。しばらくは、静かに月詠の様子を見守っていた。その瞳は真っすぐに湖の中心あたりを見据えている。


 緩やかに揺れていた水面が、すっと静かになる。

 月詠は小さくため息をこぼした。


「龍神、頼みがある。わかるだろう?」

 水面はしんと静まり返ったままだ。


「… 」

「… 」


 黙り込んでしまった月詠の瞳がほの昏く光ったような気がして、そっと視線を逸らした。龍神さま、早く出てきた方が身のためなんじゃないかな。


 月詠は改めて水面に問いかけた。

「今宵は龍神殿はお留守のようだなぁー。では心苦しいが、勝手にやらせてもらうかなぁ。もも?さあ行っておいで。」

 突然話を振られてももはびくっと跳ね上がった。

「ひぇっ?行くって、どこへ?」

 月詠はにっこりと笑ってももをひょいと抱き上げた。


「どこってもちろん、この中だ。うん?大丈夫大丈夫。」


 そういうと、月詠は私の訴えを完全無視してポイッと宙に投げた。もうわけのわからない奇声を発しながら、私は秋の絶対冷たいに違いない水面に向かって落下していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る