第6話

 苦しい。

 ほとんんど暗転していた視界に、ふと一筋の月明かりが射した。


「勢の姫、もうよい。」

 月詠の声が聞こえて、心底ほっとした。もはや縋るような気持ちで視線を上げる。

「お前は十分に役割を果たした。この穢れは祓ってやるから、あとは好きにしろ。この魂も、そろそろ平穏な一生を送っても良い頃だと思わないか。」


 月詠はすぐそばまで寄ってきて、右の肩にポンと手を置いた。じわりと温もりを感じる。涙が一粒溢れた。

「もも、重いだろうがもう少しだからな。」

 月詠の手が、今度はももの肩のホコリを払うようにサッと撫でる。


(あれ、なんか軽くなった?)

 つい不思議そうな目で月詠を見る。月詠はただ微笑んで、また一本道を歩き出した。


「ねぇ、今何かした?」

 足が自然と歩き出した。頭や肩に何かがズッシリと乗っているような感覚だったのが軽くなって、思考をグルグルと回る悲観論を、ひとまず脇に置いて進んでみようと思えた。


「少しだけ穢れを祓った。」

「えっなにそれ!自分で出来るんじゃん!」

「私がやると黄泉路に向かうことになる。つまり結局人生は終わるんだが、いいか?」

「は…?」


 月詠があんまり軽く言うので、最初はそれが冗談なのかと思った。が、あんまり一瞬で身体が軽くなったので、あながち嘘でもないと思い至る。つい顔が引きつった。

 その時月詠が立ち止まって、こちらの顔を見て楽しそうに笑った。所々銀色に輝いて見える髪が、さらりと揺れた。


「さぁ、こっちだ。」

 一見するとどれも同じような杉並木なのだが、月詠が示した部分に小さな石が目印のように積んであって、その先に細く茶色い線が見える。どうやら、他は一面苔で覆われているのに、ここだけ土が表れているのでこのように見えるのだった。



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