?巡目、大きな乗り物
弟子としての奴が死に、幾星霜。
奴もまた、覚者として成る素養があったというのにいつまでもこの世にしがみつき、輪廻を繰り返していた。
やがて奴は我を認識し出す。
『ああ驚いた、あなたは神様ですか?』
我がそうだと言うと、奴は落ち着き払った様子で首を傾げる。
『神様に会うのは初めてなのに、昔から知っているような……不思議な気持ちです』
我は、我は――。
◇
奴が輪廻を繰り返すのは、師が世に放った説法がどのように人々を救うのか、それを見たいからだと言っていた。
そして今回の生では、それに手を加えることになる。
『いいのか、そのようなことをして。自ら体系づけるというのか、師の説を』
「ええ、世尊の説いた話は、限られた人々を救うためにあるのではないのです。もっと多くの人々を……そう、大勢を乗せる船のような存在なのです。私がしているのは、師の本来の主張を取り戻すもの」
奴は昼夜を問わず、書を書き続けた。
その休憩がてらに、今までの前世について我は教えてやった。奴がどんな反応をするのか、興味があったのだ。
『……というわけだ。お前と師は、幾度となく会っては助け合ったり、殺し合ったりしている』
「なるほど、昔から師匠とはそのような……縁があったのですね――そうか、そうだ」
奴は何か思いついたようで、今まで書き溜めていたものを破り出した。
我が慌てて制止するも、貴重な書は破り捨てられてしまった。
『何をしている』
「すべては、縁で説明できるのかもしれません。私と師匠が、そうであったように」
『縁、だと?』
「ええ。私と師匠の、切っても切れぬ縁のように、このすべてには縁があります。父と子、子は父がいなければ生まれなかったが、それでは父は? 父は子が誕生せねば、父とはならない。そこに縁があります。私と師匠が、そうであったように」
奴は話しながら、凄まじい勢いで筆を走らせている。
『詭弁だな。それで他の者が納得するかどうか』
「納得するでしょう。縁は、身近にあります。遍く、身近に」
我は首を捻ったが、後世のことを見ると奴の言った通りだったのだろう。
大きな乗り物に乗って、多くの人間が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます