八巡目、老師――九巡目、弟子
また生まれ変わった奴は、今度も仙人を志した。
そして、あちこちを流浪する旅の僧侶として知られるようになる。
ある時、太陽を司る王家にある王子が生まれた。
それはかつての聖仙、かつての亀、かつての太陽の息子、かつての兎だ。
あの前世を見てから、我は奴に関わりたくなかった。我はかつての、自ら見定めたカエルの夫、その王子だけを見ていたかった。
幸い、奴らは遠く離れた地にいた。歳の差もある。僧侶として旅する奴は、もう高齢だ。
しかし、我の願望は打ち砕かれる。
奴は老いには勝てず、病気まで抱えていた。そのため、奴はある国の門前で倒れることになる。
大した神通力も得られなかった奴はあの太陽の家系の治める国、その北の門の外に倒れていた。
そこで奴らは出会う。
「また、老人か……」
「何だね、高貴な者よ」
修行をしていただけあって、奴は庶民に扮した王子の身の上を即座に見抜いた。
王子は驚き、問いを返す。
「老いた人よ、もしやあなたは名高い僧ではあるまいか?」
「ふふ、私はそんな達者なものではない。老い、病んでいるだけの只人だよ」
実際、その通りではあった。
それでも王子は、どうしてもこの老人に聞きたかったのであろう。再び問いかける。
「いや、あなたからはただならぬ何かを感じる。問おう。この世の苦しみとはなんだ?」
「なぜそんなことを尋ねるのかわからんが、私自身だろうね」
「あなた自身が?」
「ああ――何度も、繰り返した気がするよ。同じ苦しみを」
老人はそう言うと、眠るように死んだ。
王子はそれに大きな何かを感じ取ったのか、その日のうちに妻も子も捨て、王家から出家した。
我はただ、それを眺めていた。
◇
やがて、王子が悟りを開いた。
厳しい修行に明け暮れ、それを無為なるものと断じて休息を取り、深く考える。
我の、世界を支えている我の下から完全に放れている。一人、そこに在る。
驚愕すべき人間のなせる業が成就した日、一人の赤子が生まれた。
後に、元王子の弟子となる人物。前世は門前で死んだ、ただの老人であった。
赤子は育ち、覚者の弟子となる。
少し間が抜けていて、手のかかる弟子は師からため息交じりに叱られていた。
しかし、彼を見つめる師匠の目はいつも慈愛に満ちていた。
我は目が離せず。かといって邪魔もできずに眺めるだけだった。
覚醒した奴は我をも知覚できるらしく、時折虚空を見つめては憐れみの視線を向けていた。我を、奴は憐れんでいた。
それを屈辱とも思えず、かといって慰めにもならない。できるのは、ただ眺めるだけだった。
覚者として、遍く人々に尊敬された聖人も寿命を迎えた。
病が原因でもある。そして奴は死とともに、我にも想像のつかない領域へ旅立つのであろう。
奴の死に、多くの弟子たちは動揺せず見送った。一人を除いて。
手がかかった、間抜けな弟子。奴だけは人目をはばからずにおんおんと泣いた。
他の弟子たちから未熟だと罵られようと、師の遺体から離れようとせずに泣き続けた。
それから時が経ち、未熟だった弟子は多くの者から説法を請われるようになった。
なぜなら、奴こそが諸国を漫遊した覚者と常に連れ添い、その言葉をずっと耳にしていたからだ。
「私はこう聞いた――」
奴の説法は、いつもその言葉から始まる。
自分の言葉などない、師匠からの受け売り。人々は、その受け売りを真に求めていた。
奴の言葉は多くの経典にまとめられ、
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