58 大魔術師の最後

「フェイさん!フェイさん!」

イミナがフェイのもとへと駆け寄る。

フェイは血だらけで、顔と背中の損傷がひどかった。その傷が激しい戦闘を物語っていた。

「どうしよう、このままじゃ!」

「我に任せろ。」

リヴァイアサンが回復魔法をフェイにかける。

みるみるうちにフェイの傷はいえていき、やがて意識が戻る。

イミナはフェイ頭をひざに乗せて顔を近づける。

「フェイさん、大丈夫ですか!?」

「…お、…お!?」

フェイは驚き、くるんと回転して謎のポーズをとった。

酷く赤面している。

「な、なぜ貴様がここにいる。あが…。」

フェイは体を痛そうにする。

「馬鹿者、しばらくおとなしくしておれ。貴様、損傷が相当ひどかったぞ。」

「海龍帝王様が治療してくださったんですか…ありがとうございます。そ、それより…。今の状況を説明してください。」

あたりの惨状を見渡す。民家は焼かれ、人々が大勢死んでいる。

シャルヴァンを倒したことで、魔族は退いたようだが…。

これは…ひどい。

「魔王軍が襲撃してきました…。でも、侵略軍のリーダーであろう、魔王軍四天王シャルヴァンをトゥルガーさんが倒してくれました。」

「そうか…だから退いていったのか…。おい、教師たちはどうなった。」

イミナは静かに首を横に振る。

「まぁ…そうだろうな…。」

「おーい、イミナちゃーん!」

ロイが走ってきた。

頭から流血している。

「ロイさん!だ、大丈夫ですか!」

「あー?平気平気。浮遊中に魔力切れちゃって頭がごっつんこ!なんかね。どんどん魔族倒してったんだけど急に消えちゃったの。」

「大丈夫じゃないです!早く治療を…!」

「…ほれ。」

リヴァイアサンがロイに回復魔法をかける。

「…んお?すごーい。すぐに治ったー!」

「…ロイ、魔族はどうだった。」

「えー。普通だったよー。確かに人間よりは強かったけどー…。私よりは弱かったね。あははは。」

「そうか…さすがだな。」

フェイは、悔しそうな表情をしていた。おそらく、自分が魔族相手に苦戦し大けがを負ったのに対して、ロイが軽傷だったからだろう。でも、フェイも十分戦ったのだろう。周りの魔族の死体を見るに、相当な数の魔族を倒している。


『皆の者!』


学園長マルエの声が都市中に響く。


『先ほど、魔族の侵略軍のリーダーを撃退した!』


『我々は魔族を相手に勝利したのである!』


『しかし…この惨劇では、勝利とはいえない。』


『オクタグラムの魔術師はほとんど殺されてしまった。』


『民間人も多く死んだ。』


『そこでだ。』


『私はこれより大魔術を使う。』


『私はおそらく、死んでしまうだろう。』


『だが!』


『皆のため!』


『魔力封じの結界に閉じ込められ、何もできなかった私の最後の償いとして!』


『これを使わせてもらう。』


『時の支配(クロノス)』


魔法学園都市オクタグラムを巨大な魔方陣が包む。

その瞬間、壊れた建物がみるみるうちに修復されていく。

そして、死んでしまった人々が息を取り戻していく。

「こ、これは…!」

「すごーい、全部もとに戻っていく!」

「禁忌魔術…『時の支配(クロノス)』…。対象の時間を操り、元に戻す。ごく一部のものが使用可能という時間魔法に部類する大魔術…。しかし、この範囲。あり得ぬ…我でもそんな魔力はないぞ…。」

リヴァイアサンは珍しく驚いているようだった。

「マルエ様…おそらく自分は死んでいるだろうって…!急いでマルエ様のもとへ!」

「いやぁーイミナちゃん。そんな時間ないよ…。」

あたりを見渡す。なんと、死んだ魔族までもが蘇っていたのだ。

「あ…あ?なんで生き返って」

リヴァイアサンが生き返った魔族の首を跳ねる。

「おいイミナ、まだ戦えるか?」

「はい!戦えます!」

するとロイとフェイが申し訳なさそうな顔で手を挙げる。

「ごめんねー私魔力切れちゃってて戦えないやぁ。」

「俺もだ。すまん。」

「大丈夫です。二人はしっかり休んでいてください。」


「それじゃあイミナ…魔族狩りなのだ。」




その後蘇った魔族を殲滅した後、俺たちは学園長室へと向かった。

そこで、学園長、そして大魔術師のマルエ=ド=マーリーは息絶えていた。

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