39 さらばポーラル
「…なんだそれはイメチェンか。」
「そうです。イメチェンです。」
リヴァイアサンと契約をした後日、俺らはギルドに顔を出した。シルヴァはイミナの髪に入った青色のメッシュが気になるようだった。
「…すんすん。おいお前水属性のにおいがするな。」
水属性のにおいってなんだよ。まぁ実際その通りで、イミナはリヴァイアサンの眷族になったとこで水属性の魔力を手に入れた。そのおかげで最高レベルの水属性耐性を手に入れることができた。本来なら水属性魔法(Lv5)というのも手に入れることが可能らしいのだが、魔法不可の呪いのせいで取得できなかったそうだ。
というか待てシルヴァ。今お前どうやってイミナから水属性の魔力を探知した。
「はい実はごにょごにょ。」
イミナはシルヴァに耳打ちする。
「ほう、なるほど。どうりでか。」
シルヴァはあまり驚いた様子でもなかったようだった。もしかしてこのことを予測していたのだろうか、いやこいつはそういう冷静なやつだったな。
「それでシルヴァさん、私。今日この国を出ようと思っているんです。」
「…その海龍帝王種を連れてか。」
「あ、それは考えていませんでした。どうしますかトゥルガーさん。」
「どうせ暇だし、いいよ。」
軽い。そんな二つ返事でついてくるのか。
「ふぅ…それなら厄介ごとが減った。そいつの監視やらなにやらの報告書をギルド長に書かされるところだったんだ。お前らがいなくなったら仕事が減る。」
「はい、この街に来てすごく楽しかったです。いろいろご迷惑をおかけしましたが、ありがとうございました。」
イミナは深々とお辞儀をする。
ギルドの受付にいき、滞在登録を解除する。この街にきて15日ほど、俺らはメナンカートのギルドを去ったのだ。
歩いてメナンカートの街を出て、そのままいくつかの街を横切り、国の堺にまでやってきた。門番に身分証を渡して俺たちはこの海岸貿易国ポーラルを後にした。さらばポーラル。そんな風に心のなかでいってみた。
シルヴァはイミナたちがギルドからいなくなった後も淡々と事務作業をこなしていた。そこへ先ほどの様子を見ていたソーマが近づいてくる。
「ふふふ、シルヴァさんったら強がっちゃって。本当は寂しかったんですよね。」
「うるさい、仕事が溜まってんだ。早く手を動かせ。」
シルヴァの表情は一切変わってはいなかった。
「はい、わかりました。こちらがギルドに届いた依頼です。リヴァイアサン警報のせいでクラーケンが近づいているとのうわさが…………」
「で?次はどこにいくのだイミナ。」
「はい、実は前々からリミドさんと話していたんですけど。」
そういうとイミナは俺の口に手を突っ込み本を取り出す。
「ここです。この魔法学園都市オクタグラム、大きな魔法学園が中心となってできた街で、魔法の研究が盛んなんだそうです。」
「魔法…ほう、もしやおぬし。」
「はい。そうです。」
「ここならイミナの魔法不可の呪いを何とかできるんじゃないかって思ってたんだ。ちょうどいい機会だし、ポーラルからもまぁまぁ近いからな。」
「ほうほう。オクタグラムか。我は海沿いの国しかいったことがないからのう、陸地にある国は楽しみだのう。」
魔法学園都市オクタグラム。その名の通りオクタグラムという魔法学園を中心として出来上がった年であり、この世界では珍しく王を中心とした政治ではなく、学園のトップである学園長が実質的にその都市を仕切っているのだそうだ。魔法の研究にとても力を入れていて、その科学力ならぬ魔法力は西の大陸一だそうだ。イミナのかけられた魔法不可の呪いはとても強力なもので、どの書籍を調べてもそれの解呪方法が載っていなかった。それどころか魔法不可の呪いというものがそもそもどこにも載っていなかったのだ。だとするとこの呪いをかけたイミナの親はいったい何者なんだ?と、少し悩んでいたものだ。イミナの言う通り、オクタグラムならイミナの呪いについて何かわかるかもしれないし、良ければその呪いが解呪されるかもしれない。そうすればイミナのキャラが戦闘能力がどんどん上がっていくな。魔法がつかえて、リミッドパーツを装備してて、海龍帝王の眷族で…。
…。なんだがイミナばかりが強化されてないか?リヴァイアサンの眷族になったところでイミナが強くなっただけであって実は俺、リミドはなんの強化もされてない。なんだかリヴァイアサンに俺の絶対的ポジションが奪われそうな気がしてならない。やっぱり、自由補助粘体(アシストカスタム)のポイントの効率のいい稼ぎ方を見つけて、たくさん強化して強くならないといけないな…。
「…さん、リミドさん!」
「へっ!あ、なんだイミナ。」
どうやら考えるのに集中しすぎてイミナの声が聞こえなかったようだ。
「はやく準備してください。翼とブーツです。」
「あぁ、はいはい。よしと。」
俺は体を変形させる。
「じゃあ行きましょう!魔法学園都市オクタグラム!『転翔(ステップ)』、『浮遊』!!!」
ちなみに移動中、リヴァイアサンはイミナの背中に張り付きながら頭をなでていた。
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