37 vs剣聖
「…。あの、シルヴァさん、これ。どうなってるんですか?」
「おい、シルヴァ。説明してくれ。」
「イミナはかわいいのう、ふふふ。」
「…。俺が説明してほしい。」
俺ら一行がギルドのドアの前で見たもの。それは下着姿の酔いつぶれたおっさんであった。そのおっさんとは剣聖サイカ=グランである。派手な装飾が施された銀色の羽織、白く輝く大剣の姿はどこにもない。
「おい、クソ師匠。寝てないで起きろ。」
「んが!?あ、あれ。リンリンちゃんは?あ、あらら。どうして俺こんな格好で寝てんの…。おぇ、気持ち悪い。」
「ギルドの前で吐くな。とりあえず服を着ろ。」
「いやぁ、昨日娼館で飲んでていい感じなった子がいてそのままお持ち帰りしようとしたらそのまま俺酔いつぶれて寝ちゃったみたいで。ははは…。どうしよ、俺の愛剣ゼルドラド…。銀装フェルナンド…。」
「自業自得だ、俺は手伝わない。自分で取り戻して来いよ。」
「はぁ…めんどくさいなぁ…。お、白の悪魔。どうだ?元気になったか。」
「は、はい。元気になりましたが。」
「よし、じゃあさっそく模擬戦闘といこうじゃねぇか。」
「…え?おい、剣聖さん。あんた剣と装備がない状態で戦うっていうのか?」
「まぁ、いいハンデじゃないか。いや、それでもまだだな。シルヴァ、お前も混ざれ。白の悪魔と協力して俺と模擬戦といこうじゃないか。」
「ゼルドラドとフェルナンドがなくて?今二日酔いで気持ち悪い状態の師匠と?それに加えてこの新人Bランクと?」
さすがに、ここまでハンデをつけられて挑まれるとシルヴァもイラついてしまうのではないだろうか。礼儀を重んじる彼は正々堂々の勝負が好きなはずである。
「師匠をぼこせるチャンスだ、おい新人、リミド。協力するぞ。」
そんなプライドなんてなかった。
砂浜。昨日リヴァイアサンが暴れまわった広い砂浜。そこで模擬戦をするらしい。
剣聖は安物の剣を素振りしている。
俺とシルヴァはある程度の作戦を練っている。剣聖のある程度の攻撃方法、注意すべきスキルをシルヴァから教えてもらった。よし。準備オッケーだ。
「ゼルドラドの遠距離斬撃、フェルナンドの存在剥離のない師匠なんざ、ただシンプルに強いだけの化け物だ。」
「…化け物に変わりはないんですね。」
「そりゃそうだ。ステータスの時点で俺らは負けている。」
「シルヴァ、あの作戦大丈夫だよな?」
「お前が耐えれればの話だ。」
「がんばれーイミナァ!そんな変態に負けるんじゃないぞぉ!」
「シルヴァさん頑張ってくださぁい!」
リヴァイアサンとソーマが俺らの模擬戦を見守っている。ほかにも大勢の観客がいる。なにせこの街の専属冒険者Aランク冒険者と俺ら新人Bランク対Sランク冒険者の模擬戦である。
「さてと、そろそろ始めるか。」
剣聖がきりだす。
「おし、こっちも事前打ち合わせはばっちりだ。」
「はい、がんばります。」
イミナはしゅっしゅっとこぶしをふる。
「俺も準備万端。」
「どんな小細工するか楽しみだねぇ。そっちからかかってこい。」
剣聖は手をくいくい、と動かし俺らを挑発する。
「それじゃあ遠慮なくいかせて頂きます!リミドさん!」
「おう!」
俺らの前に大きな壁を作る。
そしてその壁をしまいながら俺らは空高く飛び立つ。
剣聖は空高く飛んだ俺たちの方を見る。
剣聖が俺たちに気を取られているうちにシルヴァが急速に接近し、槍で突き刺そうとする。剣聖は少し反応が遅れた様子で、シルヴァの攻撃をギリギリのところでよける。
「おっと、こりゃびっくり。」
「油断してっからだよ。」
剣聖は安物の剣でシルヴァの槍をいなしていく。
「おう、おう。上達したじゃねぇか。」
「だから油断すんなっていってんだろ!」
シルヴァは攻撃をいったん止めてバックステップ。
俺らは剣聖の頭上から強力な攻撃を仕掛ける。足に俺を集中させる。
「なづけてライダーキックだあああぁぁぁぁ!!!」
なづけて、というかもろパクリである。
しかし、その攻撃も剣聖は身軽にかわす。
「っち、当たんなかったか。」
「次行きましょうリミドさん。」
「次は俺からかな。『瞬歩』。」
一瞬で剣聖は間合いをつめ、俺らに攻撃を仕掛けてくる。あらゆる角度からものすごいスピードで斬撃が飛んでくる。
「ほら、ほら!守ってばっかになっちゃったよ。」
「や、やっぱり早いです!」
スキル:『瞬歩』
数mほどの距離を一瞬で移動するスキルである。近接戦に持ち込むことができるため相当強力なスキルである。
俺らはそのスキルをあらかじめシルヴァに教えられていたため防御が間に合ったか、それでもアップアップである。攻撃する隙がない。こうなったらさっそくあれだ。
「シルヴァ!」
「用意できてる。」
「イミナ!下がれ!」
華麗な動きでイミナは後ろに下がる。そしてそこには魔力をこめ、槍を構えたシルヴァがいた。
「くだばれ。『破壊の槍(ゲイボルク)』。」
シルヴァの槍は音速を超え、剣聖に向かって真っすぐに飛ぶ。
「おっとあぶねぇ!」
剣聖は間一髪でよけたようだった。
「あれれ?でもこれ使ったらお前槍つかえないじゃん。」
そう、この技は槍を投擲するものであり、槍を回収しないとシルヴァは戦うことができないのだ。と、そう剣聖は思っているだろう。
「隙ありだ。『破壊の槍(ゲイボルク)』。」
第二撃。
それも剣聖はよけてしまうが、予想外の攻撃に剣聖は少しよろめく。
「は、お前今何投げた!」
「俺だよ!」
俺が槍の形に分離してシルヴァの手で投げられる。投げた後に変形し、後ろから奇襲をかけるために俺は意識を槍の分離体にのせた。むっちゃ早くて、意識が飛びそうになったのは内緒である。
俺からの攻撃を剣聖は防ぐ。
体制を崩したまま俺の攻撃を防いでるため、相当きついだろう。
「イミナ!!」
「はい!ガントレット!」
イミナは無事に俺が抜けた状態でもガントレットに変形させて剣聖に殴りかかる。
「くそ、まじかよ。『瞬歩』!」
剣聖はシルヴァのもとへ瞬間移動する。
「ふぅ、槍のないお前なんぞぼこぼこ…え?」
シルヴァの手にはガントレットがつけてある。そう、俺の分離体だ。あの時シルヴァに渡した分離体は槍だけじゃない。
「おらぁ!!」
KNOCKOUT
シルヴァはものすごい勢いで剣聖の顎にむかってアッパー。
剣聖は空高く飛び上がる。
「いやぁ見事見事。」
「これ魔族四天王が使ってていつか行ってみたかったんだよ。「残像だ」、なんてね。ははは。これで終わりだ。『意識斬撃(コンセンススラッシュ)』。」
黒い斬撃がシルヴァとイミナを切り裂く。その瞬間二人は気絶してしまった。
「あららぁ、耐えれなくて壊れちゃった。」
剣聖はボロボロになった剣を手に、一切傷がなく余裕そうな表情で立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます