36 リミドの危機

リヴァイアサンは謝罪の意を込めているのか、イミナに抱き着きはせずにイミナから一定の距離をとっている。その隣を剣聖が歩く。

「そんでどうだい白の悪魔、体の調子は?」

「はい、リミドさんが脈動と再生のスキルを併用したおかげで今はもうなんともありません。」

血液循環が一瞬止まったイミナの体は激しく損傷したが、俺が頑張ったおかげでなんとか普通に体を動かせるほどにはなった。いやぁ、本当に焦った。

「そうか、それなら俺と一つ模擬戦闘でもしようじゃないか。」

「え、えぇ…。」

「瀕死に陥った直後の幼子に勝負を挑むとは貴様正気か?」

リヴァイアサンがまともなことをいう。

「俺もリヴァイアサンに賛成だ。模擬戦をやるのはむしろありがたいが、今日はもうイミナを休ませたい。」

「あらそう、そこまで言われちゃしょうがない…。じゃあ明日ぐらいでどうよ。再生レベル3なら、一日ぐっすり寝るだけで全快でしょ?」

俺の再生のレベルまで把握しているのか。こいつの鑑定眼はどうやら対象の名前、種族、レベルだけでなくスキルまで見ることができるらしい。さすがSランクといったところか、能力が明らかにチートである。

「じゃあ今日はどうしようかな、久々に夜の街にでも繰り出すか。さぁて、綺麗なお姉さんたちはどこかなー。」

そういって剣聖はどこかに言ってしまった。やはり…変態?

「っけ、年の取った人間のどこがいいのか。若くてぴちぴちで可愛らしい幼子の魅力がなぜやつにはわからない。」

「俺は別に剣聖の好みに賛成というわけじゃないが、リヴァイアサン、お前の性癖は人間の世界じゃ犯罪だ。まだあっちの方が健全だ。」

「な、なに!?貴様も我と同じ趣向かと思っていたのだが…幼子の心臓に入って興奮しないのか。」

「しない。というかこのくだり今日で二回目だ。早く帰ろう、イミナ。今日はゆっくり休もうな。」





「なんで風呂までついてくるんだよ。」

「え?いや、別にやましい気持ちなどない。人間の文化にふれてお…ほ、ほほほほ。やはりイミナの肌は綺麗ぐべらっ!?」

とりあえず俺はグーパンチする。

「というか我は生物上雌だから構わぬだろう!問題なのは貴様だリミッドパーツ!なんでお前がよいのだ!リミナは嫌ではないのか、こんなやつと風呂に入って。」

「私とリミドさんは一心同体です。今は分離スキルで一時的にリミドさんを置いていくこともできますが、できる限りリミドさんと一緒にいたいんです。」

「いざというときにも備えてるんだ。お前が一緒にいるだなんて油断ならない。」

「まぁリミドさんの気持ちはわかりますが殴らなくてもよかったんではないでしょうか?トゥルガーさんも反省したみたいですし…。」

「イミナは相変わらず優しいな。」

「イミナぁ!!おぬしというやつは、もうかわいいのう!」

リヴァイアサンは我慢できない様子で浴槽の中から高く飛び上がり、イミナに向かってルパンダイブをした。

もちろん、俺は防御した。しかし、素早い動きでイミナの後ろに回り込み、その後好きなようにさせられた。この「好きなように」は、みんなのご想像に任せよう。

とりあえず、宿主に浴槽で暴れるなとたっぷり怒られたこと。

風呂から出て宿主から説教された後にぐっすりと眠ってしまったこと。

その間ずっとリヴァイアサンが引っ付いていたこと。

俺が頑張って引きはがそうとするも、その抵抗も意味をなさなかったこと。

これだけ伝えておこう。




朝。イミナの髪をとく。その間もずっとリヴァイアサンはイミナに抱き着いていた。

「おぉーかわいいのうかわいいのう。ふふふ。」

イミナはすっかり慣れたようで、平然としていた。昨日、俺たちのことを瀕死にしたのをもう忘れているのではないかというぐらいリヴァイアサンはなれなれしい。

「おいリミッドパーツ。そのくしを貸せ。」

「いやこれ、「俺」だから。」

「じゃあ分離体を作れ!今すぐなのだ。我がやりたい。」

「…。」

俺はしぶしぶ、くしの形をした分離体を作りリヴァイアサンに渡す。

「ふふん♪ふんふん♪」

リヴァイアサンは鼻歌交じりにイミナの髪をときはじめた。

「ありがとうございます、トゥルガーさん。」

「すんすん、うむいい匂いだ。やはり幼子の髪は綺麗だのう。」

俺のポジション…俺の立ち位置…。

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