24 テール公爵

「いけませんシルヴァさん、テール家とのご会食に遅れています。急いで向かいましょう。」

「そうか、わかった。おい新人Bランクお前もこい。テール家は物好きだ、お前のような悪魔使いがいると話のタネに困らん。」

と、いうことで俺らも貴族様(厳密にいうと公爵家)の訪問及び会食に付き添うことになった。イミナは終始不機嫌だった。仕方がなかったんだから許してくれよ。お前の肌がさらされたことは俺も誠に遺憾だが、一人の子供を救うためなら致し方ないだろう。な?な?

「なぁシルヴァ。」

「悪魔は俺のことを呼び捨てか、生意気だな。なんだ。」

「テール家との会食というが俺らの分の食事もあるのか?」

「たぶんある。俺はよく話のタネに困るから冒険者を連れて行くんだ。それもあって予備の食事まで用意されるんだ。」

よく行くのか。それならなおさら疑問だ。

「どうしてお前はテール家の訪問を渋っていたんだ。断ろうとしていたじゃないか。」

「よく行くからこそだ。俺とあそこには信頼関係がある、他に優先することがあればそちらに行くのが当然だ。まぁその優先することの中に結果的にテール家の訪問が入っただけだ。」

「ウンディーネの討伐でしたっけ?」

「あぁ。近ごろ現れたんだが、やつらは相当ずるがしこい。だから資金援助が必要だ。」

…ん?

「今相当説明省きませんでしたか?」

「ウンディーネは人を惑わす魔物で、人間をその歌声で海の中に引きずり込み捕食します。やつらは大勢の人間が向かうとその姿を海中深くの巣へと引きこもってしまうのです。ですから、海の上で人間を狙っているタイミングでのみウンディーネの群れの討伐が可能なのです。そのためには大勢の人員、そしてウンディーネを一撃で沈めることのできる高火力の武器を人数分用意しなければいけません。」

シルヴァの発言を補足してくれる人、っていう印象しかないんだが。

「でも、シルヴァは範囲攻撃ができるんだろう?それで一気に倒せないのか。」

「残念ながらウンディーネは水属性への高い耐性を持っており、シルヴァさんの範囲攻撃は水属性の魔法によるものです。」

「むっちゃ相性悪いじゃん!」

「一匹ならば俺の槍で突き刺せる。」

なんか見え張ってますけど。

「じゃあシルヴァさんは今回の作戦に参加しないんですか?」

「いえ、そういうわけではありません。ウンディーネの上位個体であるクイーンウンディーネの目撃情報がありますのでシルヴァさんにも参加していただきます。クイーンウンディーネはウンディーネよりもかなり厄介で、常に海の中に潜んでいます。そのうえ、魔物の上位個体のみが持つ統括能力(コマンドスキル)の『女王の僕(クイーンガーディアンズ)』はとても強力なスキルです。この能力は自分の周囲にいるウンディーネのHPを吸収するというもので、支配下のウンディーネを倒さない限りクイーンウンディーネは倒せないのです。」

「無茶苦茶倒しずらいじゃねぇか。そんなのどう倒すんだよ。」

「そこでシルヴァさんの出番です。討伐隊で一斉にウンディーネを討伐すると同時にシルヴァさんが海に飛び込みクイーンウンディーネを討伐するという作戦なのです。」

「一匹ならば俺の槍で突き刺せるといっただろう。それがたとえクイーンでもだ。」

Aランクの貫禄という奴だろうか。シルヴァの背中が少し大きく見えた。




豪華な装飾が施された部屋に通され、大きなテーブルに座る。豪華な料理が並べられ、イミナは目を輝かせている。食事作法もしっかり叩き込んでおいてよかった、まさかこんな風なことになるだなんて予想もしていなかったからな。

さっき歩いているときに作法はしっかり叩き込んでおいた。まぁ、この世界の作法と地球の作法が一緒ってなわけはないんだけどね。手づかみで食べるとかのよりはましだろう。

そして肝心のテール家の当主だが…。一番豪華な椅子に座っているのがそうだろう。なんというか、パッと見た印象はすごく悪い。小太りの、キモイやつ?貴族とはこういうものなのだろうか。物好きとは言っていたがそういう変態みたいな方向じゃないよね?

「シルヴァくん、今日はどんな人を連れてきてくれたんだい?」

「テール公爵、今日はつい最近Bランク冒険者になったイミナというものを連れてまいりました。」

「どこかで聞いたことがあるような名前だな。」

「シャナーナ記事をご覧になったのでしょう。あの記事にも載っていました通り、このイミナというものは世にも珍しい悪魔使いなのでございます。」

シャナ―ナ記事とは西の大陸全般の情報を取り扱っている記事のことで、西の大陸ならばあらゆるところで見ることのできるものだ。…え?ちょっと待って俺ら記事になってたの?あぁどうりでこの街についた時もギルドで変な目で見られてたわけか。

「そうだそうだ、悪魔帝をソロで討伐したとかでBランクになったという大物ではないか。君は毎回とんでもない人を連れ来るの。あぁすまない自己紹介が遅れたようだね。私はテール家当主、マグナ=ラ=テール公爵だ。テール公爵と呼んでくれ。」

「ほらイミナ、お前も挨拶しろ。」

「はい、お初にお目にかかりますテール公爵。Bランク冒険者イミナと申します。お目にかかれて光栄です。」

「おや、珍しく礼儀がなっているじゃないか。シルヴァくんが連れてくるのはいつも無礼なやつらばかりだったのにな。それもそれで面白いのだが、あっははは。」

「いえ私も驚きました、ここまで礼儀がなっているとは。」

俺のおかげである。

「白髪、まさか東の出身ではないだろうな?」

イミナが硬直する。テール公爵、それはイミナにとってタブーだぜ。

「…そうか。あそこは白髪迫害の文化が根強いから君のような子が奴隷として東からうちに流れてくることがあるんだよ。君も苦労したんだね。野暮なことを聞いてしまい済まなかった。噂の悪魔が見たいのだが、今はどこにいるのかね?」

この人、すごいいい人じゃないか?

なんか気遣ってくれたし。人は見た目によらないってわけか。

「こちらにいます。私(わたくし)がイミナの従魔である悪魔リミドでございます。」

「ほうほう、これは珍しい…。今までに見たこともない悪魔だ。」

「私は特殊個体でして、どの悪魔とも異なるのです。ですからこうして人間と契約を結び、このような形になっているのです。」

「共存関係というわけか、これまた珍しい、いろいろと話を聞かせてくれないか。さぁさぁ、料理が冷めないうちに召し上がりながら。」

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