25 蚊帳の外
「さて、テール公爵。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか。」
シルヴァがきりだす。
「さて、なんだろうか。君から提案することはたいてい無茶なことなんだが…。」
「近々ウンディーネの討伐隊を編成させます。支援をお願いします。」
うわ、また説明省きやがったぞこいつ。遠距離の武器が必要、とか大勢の冒険者が必要、とかそういう話全部ふっとばしたぞ。さて、説明補足が入るのか…。と思ったが、シルヴァの説明を補足していた冒険者は口をふさいだままだった。
「なるほど。私のメリットは?」
「メリットなんかもともと考えていないでしょう。」
「いや考えているよ、資金援助なんてしてたら私の名は良い方向で広まっていくからね。」
「ではどうでしょう」
「条件がある。」
は、話が成り立っているだと?この貴族、どんな理解力しているんだ。
いやまぁ、シルヴァとテール公爵はよく会食をすると言っていたし、なるほどシルヴァとまともに話せる男というわけか。やっぱり人は見た目によらない。
「リミドといったかな?君の連れている悪魔は。」
「は、はい。」
「なんでございましょうか。」
「君の一発ギャグか何かを見せてくれ。そしたら資金援助をしてあげよう。」
俗にこれを無茶ぶりという。え?なに、いきなり一発ギャグをやれと?こんな大事な会食の場で?資金援助をするかどうかの大切な場面で?
「すみません、聞き間違いかもしれないのでもう一度おっしゃってください。」
「一発ギャグだよ、悪魔の一発ギャグなんてそうそう見れるものじゃないからね。」
俺はシルヴァに助けを求める。なんか、ほほ笑んでる。だめだ。
俺はイミナに助けを求める。あ、さっきのことまだ根に持ってるから不気味な笑いでざまぁみろとか思ってる。くそ、どいつもこいつも!
「イミナ、ちょっとたて。」
「え、はい。」
「腕くんで。」
「はい。」
そうして俺は形状を槍に変化させてイミナの手に握らせる。
分身体を足元に大量に出して、さも水のような形にする。
「シルヴァの真似。」
「感謝と侮辱された怒りとの二つの気持ちだ。」
「私まで…恥をかきました…。」
「…。無茶ぶりをしたあっちが悪いだろ。」
ギルドに戻り、シルヴァはさっそくウンディーネの討伐隊の編成に取り掛かった。それはもう大急ぎで、俺らのことは蚊帳の外だった。イミナは自分も討伐隊に入れてくれと申し出たが、あっさりと拒否されてしまった。よそ者ばかりに活躍させてやるほど俺の器はでかくない、だとよ。
さて、では現在俺らは何をしているか。釣りである。厳密にいうと漁船の護衛なのだが、基本周囲の警戒は俺の仕事だから手持無沙汰になったイミナは依頼主に釣りをさせてもらうことに。ちなみに今はガントレットも解除していて、完全にイミナ1人で釣りをしている。俺は船の四方に分身体を伸ばして警戒する。
「いやぁ驚いた、あんたが噂の悪魔使いだとは。海の魔物は厄介だから、たのむぜ悪魔さんよ。」
「大丈夫です、リミドさんは強いんですよ。」
少し照れる。
「まぁ嬢ちゃんもゆっくり釣りを楽しめ。俺らは仕事に取り掛かるから。」
イミナは鼻歌交じりに釣りを楽しむ。俺は船に近づく魔物がいないかを警戒する。お?あれは…ピラニア?のでっかいバージョンだ。明らかにこちらに敵意を向けていたので倒して船にあげたが。
「お、こいつはララニじゃねぇか。こいつは焼くとうまいんだ。」
「あむ。」
「あ、てめぇ食いやがったな!」
実はこの体になって味覚が薄れてきているようで、どんな調理を施してもさほど味が変わらないようになってしまった。それは決してまずいというわけではなく、むしろおいしい。それでもなぜか違和感を感じてしまう。これは味への探求ではなく、ただひたすらに魔物を食いたいという食欲なのかもしれない。
魔物喰ライ
自由補助粘体(アシストカスタム)の特殊条件にこれがあるのはなぜなのだろうか。
『1ポイントが入りました。』
無事に依頼を終えて俺らはギルドに依頼達成の報告をして、報酬を受け取り宿に向かう。
「ねぇリミドさん。」
「ん?なんだ。」
「…またあそこの道に行っておいしいもの食べよ。」
「…。あぁ、いいなそれ。」
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