23 激流のシルヴァ=ルビリット
朝。今俺たちは汐風の家という場所で宿泊している。どうもこの世界の宿というのは一階が酒場で二階が宿泊する場所となっている構造が一般的な用だ。
イミナを起こして髪をくし(俺)でとかす。パジャマから服に変身。
「この街でも服買いたいですね。」
あの、イミナ。取り込むの割かし面倒くさいし精神的負担がえぐいんよ。女ものの服を事細かに分析してそれをイミナの体に合わせるのって、完全に…。いや、俺はイミナの体の一部だ。どうだっていい。俺は今は実質女の子だ。(定期)
昨日買った手土産をもってメナンカート街のギルドに行く。このギルドは一階部分がE~Cランクの依頼掲載及び集会所、そして二階がBランク以上が利用するスペースとなっているようだった。二階に上がると予想通りシルヴァがいた。どうやらお取込み中のようだった。
「貴族のテール家の訪問は本当にする必要があるのか?それよりもするべきことがあるだろう。近隣のウンディーネの群れの討伐隊編成やAランク依頼は俺以外に誰がやるっていうんだ。」
「いえシルヴァさん、テール家はメナンカート最大の公爵家、我がギルドにも多大なる支援をして下さっています。ウンディーネの討伐隊編成もテール家からの支援がいただけるかもしれません。」
「なるほど、それは合理的だ。ならば今すぐ向かおうじゃないか。」
俺らはシルヴァのもとへと近づいていく。
「ん?おや、これは昨日の新人Bランクではないか。どうした。」
「こんにちは、私このギルドにしばらく滞在させて頂く白の悪魔イミナです。よろしくお願いします。」
俺が仕込んだ礼儀part2である。
「滞在する場合そのギルドの専属冒険者に挨拶を、と教えられましたので改めて伺わせて頂きました。」
「ふむ、昨日ので挨拶ということでもよかったのだが。まぁいいだろう。…ん?それは手土産か。」
「はい、屋台でシルヴァさんが海の幸ならなんでも好きというのをお聞きしてこちらを用意させて頂きました。」
イミナは干しルルミーアをシルヴァに渡す。
「おぉルルミーアではないか、ありがとう。朝起きてから無性に食べたいと思っていたのだが、買いに行く手間が省けた。」
そういうとシルヴァはルルミーアを手づかみで食べ始め、さっさと会議に戻ってしまった。なるほど、決断力の塊。合理的な男。淡泊って感じだな。しかし街の人には好かれていた、カリスマってやつなのかな。
俺らが階段を降りようとすると、焦った様子の若い男が階段を上がってきた。すれ違い、その様子を少し見ているとどうやらシルヴァに用があったらしい。見た感じ冒険者ではないのだが何かあったのだろうか。男とシルヴァ、そしてその周りにいる冒険者としばらく話をして、シルヴァは何かひらめいたように席を立ちあがり俺らの方へと向かってくる。
「おい新人Bランク、お前確か変幻自在の悪魔を従えているらしいな?」
「は、はい。そうですが。」
「よしついてこい、救助依頼だ。お前の悪魔がやくにたつ。」
シルヴァと数人の冒険者が街の中を走っていく。
「お前の悪魔をロープのようにして岩に潜り込ませて救出しろ。俺はその間近づくシーサーペントを倒す。要はお前が救助、俺が魔物討伐だ。」
「…はい?」
説明をはしょりすぎていったい何が何だかわからない。
「ジョーシャ雑貨店の息子さんがシーサーペントの生息する海に崖から落ちたらしいんです。幸い岩の隙間に潜り込んで事なきをえたが体が冷えて衰弱してしまっているようで、早く救出しないといけないんです。シーサーペントは凶暴な魔物で、息子さんを救出している間にシーサーペントにやられてしまいます。シルヴァさんだったら最悪広範囲の攻撃でシーサーペントを殲滅できるんですが、それだと近くにいる息子さんまで危険にさらしてしまいます。そこで柔軟性に優れたあなたの悪魔の力をお借りしたいのです。役割分担をすればスムーズな救助ができます。すいません、シルヴァさんは端的に要件を伝えようとしすぎて必要な情報まで省いてしまう人なんです。」
そりゃ、迷惑な人だ。コミュニケーションがとりづらいったらありゃしない。
そうして俺らはジョーシャ雑貨店の息子が落ちたという崖にたどり着いた。
岩肌が露出しているところに激しく波が打ち付けている。その岩と岩、子供1人が入れるぐらいの小さいスペースに救助対象がいた。落下したときに岩にぶつからなかったうえに、落下と着水の衝撃で気絶せずに岩の間に逃げることができたのはまさしく奇跡といえるだろう。
「あそこか。」
「あそこですね。」
イミナの声に反応してシルヴァがイミナを見る。
「なんであんな小さいところまで見える。俺ほどの視力の持ち主はなかなかにいないはずだが…。なんだそれは。」
「これは双眼鏡というらしいです。遠くのものが見えるもので、リミドさんがこれに変身しています。」
「リミド?お前の悪魔の名前か。」
「どうもリミドです。」
ひょっこりとイミナの首筋から出てくる。
周りはそれに少し驚いた。
「おぉ、これが噂に聞く悪魔か。じゃあさっそく救出を行う。俺がシーサーペントを引き付けている間に救出しろ。」
シルヴァは崖からダイブした。
あ、あれ。シルヴァの着地地点無茶苦茶とんがってる岩じゃない?
あ、これもしかしてやばいんじゃないか。
俺は思わずイミナの目を覆う。
「大丈夫ですよイミナさん、シルヴァさんは一流の海の戦士です。」
俺はそおっと崖をのぞきこむ。
見事に着地していた。
シルヴァが海の水を操り、シルヴァはその水の上に仁王立ちしていた。
「あれが彼の特殊能力(オリジナルスキル)、彼の二つ名の由来でもある『激流(トレンター)』です。彼は周囲のありとあらゆる液体を魔力の尽きぬ限り自由自在に操ります。」
シルヴァは背中の槍を取り出し、子供が潜り込んだ岩の周辺にいるシーサーペントを華麗に倒していった。
「悪魔!早くしろ!」
「いわれなく…ても!!!」
まぁまぁな高さがあったため、相当な量の「俺」を使って腕をものすごく伸ばした。ガントレットは解除した。ブーツはイミナが落ちないように地面に杭のようなものを打ち込んでイミナを固定するように変形させた。それでギリギリ足りるほどだった。この崖すごく高い。ほんと、よく子供は死ななかったな。
急速に伸びた俺は岩の間に潜り込んで子供に近づいた。
「よう、俺様はリミドっていう良い悪魔だ。お前を助けに来たぞ、さぁ掴まれ。」
子供は泣きべそをかいていたが俺を見ても驚きはせずに俺の手を掴んでくれた。俺はそれを引っ張り上げる。
「しまった悪魔!一匹そっちにいった!」
俺はシルヴァの声に反応してあたりを見渡す。
こちらに攻撃を仕掛けてくるシーサーペントが一匹。しまったは俺のセリフだシルヴァ。俺は今相当な量の「俺」を使っているからこのシーサーペントを倒すほどの「俺」がない!ど、どうする。今「俺」の量はギリギリなのに!あ…。「俺」を使っているところ、まだあったわ。
俺は俺を変形させてシーサーペントの脳天を貫いた。
ある程度の高さまでいき、シーサーペントがもう来ないであろう位置になったとき俺は「俺」をもとあった場所に戻した。
「シルヴァ、もういいぞ。」
「そうか、わかった。」
俺の合図に反応し、シルヴァは素早く崖を駆け上っていった。
無事に子供を引き上げる。子供は泣きながら走りだし、その子の父であろう人物のもとに駆け寄り抱き着いた。
「ありがとう、本当にありがとうございます。」
…。いや、無事でよかったんだよ。
「よし、これで一件落着だ。新人Bランク、悪魔、よくやったぞ。…ん?どうしたお前ら。どうしてそんな顔を赤らめているんだ。」
「リ、リミドさん。」
「い、いやぁすまない。で、でも仕方がなかったんだ。」
さて問題だ。俺はシーサーペントから子供を守るためにあるところから「俺」を移動させてシーサーペントの攻撃にわりあてた。その元の場所とはどーこだ?
イミナの服である。つまり、イミナは数秒間ほぼ全裸になったのだ。ほぼ、というのは下着だけはつけたままだからだ。そこは守ったから…ね?
「お、おい、お前らイミナのこと何見てんだぁこの変態どもがぁ!」
「リミドさんのせいです!」
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