19.5 黒の繭



クラッチがイミナを見つけたときはすでに何もかもが終わっていた。

散乱するオークの死体、祭壇につるされた首なし死体。その中の一つは、クルルと思わしき人間の死体もあった。そして、目の前の謎の物体。

いな、一度だけクラッチはこれを見たことがある。

イミナが寝るときのリミドの形態。繭である。

つまり、この中にはイミナがいるということだ。繭の近くには悪魔と思われる魔物の死体、そして道中見つけたオークロードの死体。これをすべてイミナがやったのか?わからないことが多すぎる。クラッチは急いで黒い繭のもとへ近づき、イミナに事情を聴こうと思った。しかし、クラッチが近づくと黒い繭からリミドの分身体、それも凶暴化しているものが現れた。クラッチは即座に反応し、リミドの攻撃をよける。リミドがクラッチに敵対しているのだ。リミド相手にLv54のもとCランク冒険者が勝てるわけがないというのは最初から分かっていた。クラッチはDランク昇格試験参加者のいるところへ戻り、馬車が来るのを待った。馬車が来るとクラッチは大急ぎで出発させ。テルミアのギルドでこのことを話した。オークロードの出現及びそれがすでに死亡していること、試験参加者のクルルが死亡し、生贄となって召喚されたものであると推察される悪魔の出現及びそれがすでに死亡していること。そして、イミナの従魔である悪魔、リミドが暴走していること。

ギルドは急いで冒険者を収集し、臨時調査隊を結成した。

Aランク冒険者『氷結のスキッタ=トワ―ル』を中心とする総勢30人の調査隊。

Bランクは7人、Cランク22人の調査隊だ。そのCランクの中にはパネラおよびそのパーティ、そしてあの金髪の男ギールおよびそのパーティの姿もあった。



「な、なんだいこれ!これがあの嬢ちゃんだっていうのか!?」

パネラが黒い繭を見つけて叫ぶ。

Bランク冒険者の『千里眼使いテットウ』は自身のオリジナルスキルである千里眼を使い、黒い繭の中に幼い少女がいることを確認したのだ。

「この悪魔…あれほど注意しろといったのに!!!悪魔殺しの力、思い知るがよい!」

金髪の男はそう叫ぶと、十字架の光る神々しい剣を持ってリミドを攻撃する。

リミドはたやすくギールを吹き飛ばし、さらに凶暴になっていく。

「ガアアアァァァ!!!!チカヅクモノハ、タトエダレデアロウト!!!」

何人もの冒険者がリミドを鎮圧しようと挑むも、暴走状態のリミドに対しては手も足も出なかった。

「駄目だ、あれじゃらちが明かねぇ、トワ―ルさん!」

ギールのパーティの獣人がAランク冒険者に向かって叫ぶ。

「わかってるわ、そこで見ていなさいCランク。」

Aランク冒険者 スキッタ=トワ―ルが前へ出て、詠唱を始める。

その手からはすさまじい魔力を感じ、青白く輝く閃光はあっという間にリミドを包んだ。


「永遠の中で凍り付け。『白の世界(ホワイトアウト)』。」

リミドの動きはぴたりと止まり、しばらくすると黒の繭は解除されてリミドはイミナの心臓部分へと収束していった。

「おら、男どもあっち向いてろ!!!」

パネラがそう叫ぶと男の冒険者は全員イミナと反対方向を向く。

すべての分身体が戻った、つまり現在イミナはすっぽんぽんである。

吹き飛ばされたギールが荒い息で戻ってきた。

「はぁ…はぁ…あの悪魔、悪魔殺しの剣が効かなかったぞ…。それほど高位ということか…。ん?なんだ、あの悪魔、まさかあの子供の服にも変形していたということか?」

ばこん。ギールは頭をパネラにたたかれる。

「見るなっつってんだアホ。」

人間体へと戻ったイミナのもとへ、スキッタ=トワ―ルが素早く向かい、その体を自身の上着で包む。

「…。心臓に悪魔。そういうこと。…。」

スキッタ=トワ―ルはイミナの胸元に耳を当てる。

「うん、動いてる。今すぐテルミアに戻るわよ!誰か『太陽(サンシャイン)』の魔法を使える冒険者はいないかしら、すぐにこの子を温めてちょうだい。」





リミドが目覚めたのは、帰還中の馬車の中であった。


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