18 緊急事態
「ねぇマルロ、方角はこっちですか!」
「おい、イミナ!」
「あ、あぁ!」
イミナは迷わずにクルルが連れ去られた方向に走っていった。
俺はこれを止めるべきか、どうするか。
「おい、イミナ!深追いはするな今すぐ戻れ!」
「できません!人の命が奪われようとしてるんです、見逃すことはできません!」
よし。決めた。
「おい悪魔、イミナを止めろ!」
「すまない!俺はイミナに従う!」
イミナが人の命を助けたい、そう思って動いているんだ。それを手助けしないなんて従魔もといイミナの体の一部として失格だろう。
「イミナ、全速力だ!」
『転翔!』
俺は足に意識を集中させる。ガントレットをも解除し、すべての服以外の分身体を足に集めさせる。足は肥大化し、その速度はまし木々をなぎ倒しながら進んでいく。しばらくするとオークが数匹かたまっているのを見つけた。そのうちの一匹は血を垂らしながら今にも死にそうなクルルを担いでいた。
イミナは高く飛び、俺は足の集中を解除して、イミナの振り上げられた右腕に集まり、イミナが腕をふるのと同時にオークに向かって勢いよく殴りかかる。
その刹那、何者かが俺たちとオークの間に入ってきて俺らのこぶしを受け止めたのだ。
「ぐふぅ…!相当の手練れ…貴様、高ランクの冒険者か。お前らは早くその人間をあの方のところへ持っていけ!それで我々の任務は完了する。」
それはオークに似た姿、しかしただのオークではない。ただならぬオーラ、そして巨大な剣を持った魔物であった。
「こ、これがオークキング?」
「いや、違う。オークキングはしゃべるほどの知性は持っていない!」
「しかり、我はオークの種族の頂点にたつオークロード。ある方によって種族進化をさせて頂いたのだ。邪魔はさせない!」
オークロード。オークキングのことを調べているときに見かけた名前だ。オークキングが進化した姿で、オーク系統の種族の中で最も強いと言われている。高い知性とその巨大な体に似合わないほどの俊敏な動き。大勢のオークを従えて一国を滅ぼしたという伝説があるほどの魔物で、倒す際は100人以上の討伐隊がくまれるらしい。そんな魔物が、俺らの目の前にいるのだ。たしか、オークロードの最低レベルは85…。俺らの攻撃が防がれたこともあり、予想はそれ以上も上。95ほどではないだろうか。しかし、そんな化け物がこんな初心者が来るようなガラル森林にいていいものなのだろうか。いや、きっとこれは異常事態だ。
イミナは素早く後退し、俺は攻撃した巨大な手をイミナに戻す。
「リミドさんどうする、こいつ硬いよ。」
「いや、だいぶ効いている様子だ。それよりも早く倒して、クルルを助けないといけない。」
「わかった、『ガントレット』。」
俺はガントレットに変形する。
「ふんぬ!」
オークロードがその巨大な剣を素早い動きで振りかざしてくる。
俺はイミナの動きをアシストしつつオークロードの隙を伺っていた。
剣を振り下ろし、その時に生まれた隙を埋めるために剣を急いで振り回した。
ここだ。
「イミナ!しゃがめ!」
「はい!」
小柄なイミナがしゃがめば、巨大な体のオークロードの剣なんざよけられる。
「突っ込め!」
隙だらけの体にイミナはこぶしを三発ねじ込む。
俺によってアシストされたその攻撃はオークロードの体を吹き飛ばす。
「ぐ、ぐはぁ。ま、まだだ!」
スパン
「『ソードフォーム』。」
俺はイミナの手元で鋭利な剣となっていた。そしてオークロードの頭と体をつなぐ首を切り裂いたのだ。オークロードの動きが止まる。
「今まで一発で沈まない敵なんていなかったぞ、きっとこの先にいるのはもっと強敵だ。」
「うん、急ごうリミドさん。『転翔』!」
そこに広がっていた情景は異様な光景だった。何十匹ものオークが手を合わせて何かに祈っているようで、そしてその中心には祭壇のようなものが建てられており、そこにはクルルがつるされていたのだ。クルルのほかにも10人の人間がつるされおり、全員瀕死の状態だったがまだ息はあったようだ。
「な、なんだあれは!」
「リミドさん、それよりも早く助けないと!」
「あぁ、今は日が昇っている!あれを使え!」
「あれだね!『影踏』!」
これはフォールん大森林にいた時に習得したスキルで、範囲内にいる自分よりもレベルの低い日のもとで影の出ている存在の動きを鈍くするというものだ。このスキルのすごいところは範囲内にいる存在ならば何体でも発動するのだ。
スキルが発動して何匹かのオークが気づいて俺らの方を向こうとしたが、動きが鈍いせいでうまく体を動かせない様子だった。
「よし、今の内だ!」
「うん!」
「グモオオオオオオオオォォォォォ!」
一匹のオークの咆哮が森中に響く。それを合図に、祈っていたオークが鈍くなった体を無理やり動かし、手持ちの剣で自分の首をかききったのだ。
大量の血だまりができあがる。その様子は、とても狂気的だった。
すべてのオークが死ぬと、祭壇の上に黒い何かが現れた。
「イミナ!!!」
俺はイミナに叫ぶ。イミナは声に反応して足を動かし、祭壇に走っていきクルルに手を伸ばす。
しかし、クルルの頭が目の前ではじける。その血がイミナの顔にふきつけられる。俺は分身体を地面に突き出し、それを思いっきり伸ばす。そうしてイミナを無事に後退させることができた。イミナは自分の目の前で人が死んだこと、そしてその血が自分の顔にべったりとついていること。その二つが合わさり、呼吸を乱す。心拍が上がっていく。
「落ち着け!イミナ!!何かがくる!」
十一人の首なし死体。その祭壇の上の黒い何かから、禍々しい悪魔のような姿の魔物が現れた。
『我が名は悪魔帝トゥルモティアス、この世に顕現せし【死】そのものである。』
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