17 Dランク昇格試験4

朝。

繭の天井をあけ、光がさすようにする。するとイミナが起き上がる。

俺はイミナの服をパジャマから可愛らしい服へと変える。

俺はイミナの髪をくし(俺の分身体)でとく。イミナがやがて完璧に目を覚まして、繭を飛び出して木を降りる。俺もそれに合わせて繭を変形してイミナの胸元へと戻っていく。

「おはようございます。」

みんなは装備や荷物をまとめる準備が必要だったためかすでに全員起きていた。俺らは特にない。だから別にイミナを起こさなかった。

全員が支度を終えるとクラッチが集合をかけた。

「これより、Dランク昇格試験の二日目となり、いよいよ本番だ。オークの目撃情報があったガラル森林の深いところまで調査をしに行く。道中の魔物はお前らに任せる、隠れてやり過ごすのもよし、討伐するもよし。すべての行動がお前らの評価につながるから、落ち着いて行動するように。それでは移動を開始する。」




「あのぉ…悪魔さん?」

「んなんだ。」

俺はコンカスタートリオのマルロがイミナではなく俺に話しかけてくる。

「いやね、むしろすげぇ安全だからいいんだけど。それ俺らの仕事なくなるからやめてくれへん?」

あたりを見渡す。ほかの試験参加者が全員迷惑そうな目で俺のことを見ている。いったい俺が何をしたのだというのか。俺はいつものようにイミナの周囲を警戒し、見つけた魔物の脳天をかたっぱしから突き刺しているだけなのだが、何かいけなかっただろうか。

「彼らの言う通りだ、正常な評価ができない。イミナ、お前の強さは十分に理解したからそれ以上その悪魔に攻撃をさせるな。」

「了解です、リミドさん。」

「はいはい。でも、イミナの5m以内に入ってきたら迷わずに狩るから、それは文句言うなよ。」

「あぁ、それは構わない。」

俺はどうやら魔物を殺戮していったせいでほかの班の役割を奪ってしまっていたらしい。うぅ、でも魔物が視界に入るとどうしても不安なんだよな。ゴブリンが1匹、2匹、3匹…あぁ、早く殺さないと不安だ。しかし、視界に入っても殺さない。すると出番だと言わんばかりにキール率いるパーティが飛び出す。キールが先頭で刀を振りかざしている。鈍い赤色の刀からは炎が現れ魔物をどんどんと焼き切っていく。敵の数が多くなるとカルナがキールの代わりに前に出て、大きな盾で数匹のゴブリンの攻撃をクレアの支援魔法をかけられながら耐えていると、ゴブリンの背後に回ったキールが隙だらけの背中をまとめて切り裂いた。

後ろにいるコンカスタートリオは拍手を送っていた。たしかに、見事な連携だ。

パーティとしての役割分担がされていた。

「ふむ、やはりキールが群をぬいているか…。パーティとしての完成度も高い…。」

クラッチは感心しているようだった。

さて、次はコンカスタートリオである。コンカスタートリオは素早い動きで森の中に溶け込み、ゴブリンを翻弄した。見えないところから小型のナイフをゴブリンに向けて投擲していた。しかし、狙いはあまりよくないようで頭に当たって一撃で死んだのもいれば、腕などに当たりまだ動けるのも。最悪の場合はずしているのもあった。コンカスタートリオたちは何度かそれを繰り返し、やっとのことで5匹のゴブリンを撃破した。

「狙いは難ありだが…新人にしては十分だろう。」

クラッチの反応を見る限り、どうやら俺ら全員Dランクになれるのではないだろうか?

「その調子だ、警戒を怠るなよ。」

2組のパーティは張り切っている様子だった。俺は分身体をのばしてクラッチのもとへ近づく。実は先ほどから気になっていることがあったのだ。

「なぁ、やっぱり。」

「お前も気づいたか。」

「あぁ、オークが一匹も見当たらない。出てくるのはゴブリンだけだ。この周辺はオークが住み着いている場所だし、やはりオークの上位個体のオークキングがオークを束ねているのか?」

「その可能性が高いな、ここまでオークを見ないとオークが群れを成しているの考えるほかないだろう。」

「その場合どうなるんだ?」

「直ちに撤退し、テルミアまで戻って冒険者を募って臨時討伐隊を組んでたたきに行く。」

自分の力量を見誤って強大な敵に挑んで死ぬよりも、生きて情報を持ち帰る方が大切。だったか。オークキング。レベルは50~60のオークの上位個体。ホムンクルスドラゴンと同程度の強さと考えていいのだろうか?いや、オークキングには知性があると言っていたな。ホムンクルスドラゴンはほとんど知性がなかったからあんなに狩れたのかもしれないが、オークキングは厄介かもしれないな。殲滅力という点では俺は優れているから、オークの群れだけならなんとかなるんだがな。


「クラッチさん!あれ!オークです。」

コンカスタートリオのケインがクラッチのもとへと走ってきた。

「どうだ、オークキングの姿はあったか。」

「いえ、まだ見ていません。しかし、ここ付近に普通じゃ考えられないほどのオークがいます。僕ら一匹でもやっとなのに、あんな数いたら無理ですよ。」

「おーい、クラッチさん。オーク一匹討伐したぜ。」

キーラ率いるパーティはどうやらオークを討伐したそうで、キーラとカイナがオークの死体を二人で担いできた。

その後ろからクレアがひょっこりと顔を出した。

「オークの群れを発見したので、撤退していたところはぐれの一匹と遭遇して討伐しました。オークの群れの中心にはオークキングと思われる上位個体がいました。」

「よし、よくやった。現時点をもってDランク昇格試験を終了する。馬車は明日くる予定だから今日は昨日の森の浅いところまで戻って野宿とする。急げ!」

そうクラッチが指示するとコンカスタートリオのマルロが木々をかきわけて大急ぎでクラッチのもとへ走ってきた。

「ク、クラッチさん!た、大変だ…。クルルがオークにやられた!」

それは、予想だにもしない緊急事態だった。



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