16 Dランク昇格試験3

「イ、イミナさんは髪のせい…で捨てられて、そのときにこの悪魔さんと契約したんですね、うぅかわいそう…。かわいそうですぅ。」

「呼んだか?」

悪魔という単語が聞こえて俺は分身体をしゅるしゅるっとイミナの方へと戻す。

「あぁ、ううんリミドさん。私がどうして冒険者になったかを話してたの。」

俺はイミナの耳元で話しかける。

(おい、俺が転生してきたこととか、そういうの言ってないよな。)

(うん。リミドさんとの出会いは適当に嘘つきました。)

よし、それなら問題ない。

しかし、人の話で泣くなんて相当いいやつだな。こいつは。そりゃあ確かにイミナの事情を聴いたら悲しい気持ちにもなるが、ここまでとは…。まぁ、別に悪いことではないんだけどこういう感情の起伏が激しいやつは戦闘で足を引きずらないといいんだけどな。と、上から目線でクレアを見ていたことを後悔。俺たちだって冒険者になってまだ20日ほどのひよっこだ。調子に乗らない、そう決めたじゃないか。

俺は分身体をまたのばし、元の位置に戻る。馬車の正面に頭をひょっこりと出してあたりをきょろきょろする。

「どうした、いきなり戻りやがって。次お前の番だぞ。」

俺が急にイミナのもとへ戻ったので監視官であるクラッチは不思議がっていた。

「いや、なんでもなかった。はいはい、俺の番ね。」

俺は外の監視がてら、クラッチとチェスをしていた。この世界にもチェスという概念があって驚いたのだが、それを真面目そうな監視官であるクラッチが持っていたのがさらに驚きだった。本人曰く、人間とのコミュニケーションを図るのにこういうゲームも有効だ、だそうだ。俺は人間じゃあないんだけどね。


ガラル森林についたころにはすでに夜になっていたので、俺たちは森の浅いところで野宿をすることになった。少し開けたところを見つけるとクラッチは荷物を下ろして、ここで固まってテントをたてるようにと指示された。

「思ったよりも移動に時間がかかったな、今日はさっそくオークを狩れると思ってたのにな。」

「いやぁ…僕はあんまり魔物と戦いたくないからなぁ。」

「私も戦闘は…ははは。」

キーラ、カルナ、クレアの会話である。キーラは凄腕のAランク冒険者の弟子だとかなんだとか言われてたから相当強いんだろうが、やはり見たまんま他二人は頼りなさそうだ。大丈夫かぁ?

「んだよお前ら、魔物を狩るのが冒険者の本業だろ?Dランク昇格試験に受かって、いずれ俺たちはもっと上にいく。そん時はもっと強い魔物とかと戦わなきゃいけないんだぞ?」

「まぁそうなんだけどね。できるだけ戦いたくないってことだよ。戦わないわけじゃない。」

「後方支援の私がいうのもなんですけど、精いっぱい頑張ります。」

「まぁそれならいいよ。よし、じゃあさっそくテントを立てるか。カルナ、鞄の中にあるテントを出してくれ。」

どうやらテントの作成に入るようだ。俺らはテントいらずだからいいな。

さて、コンカスタ―トリオは何をしているかな?

「はい、はい。俺そっちやる。」

「わかった。じゃあ俺これね。よいしょっと。」

「あぁそれ持ってきて。」

見事なチームワークでてきぱきとテントをくみ上げている。ここは優秀なパーティだなぁと感心していた。

俺らはテントの準備をする必要がないので、火を起こしていた。

「よし、イミナやるぞ。」

「うんリミドさん。」

「「おりゃああああ!」」

ものすごい勢いで木の棒をまわして火を起こした。

するとクラッチが驚いた様子でこちらを見ていた。

「おいお前、今どうやって火を起こした。」

「ものすごい速度でぎゅるぎゅるやりました。」

「いや普通もっと効率のいい…いや。まぁ起こし方は人それぞれだな。邪魔して悪かった続けていいぞ。」

俺らは木を一本チョップして切り倒してそれを縦で真っ二つに割って薪をかこうようにみんなが座る場所を作った。

その間クラッチや二組のパーティからの目線が痛かったが、結局その木に座ってみんなで飯を食ったら良しとしようじゃないか。

俺らはてきぱきと準備をしてイミナと分担して素材を切っていき、それを湧き水を入れた鍋に入れる。肉はホムンクルスドラゴンのものだが、みんなにはばれないようにささっと入れた。少し辛みのある木の実を砕き、調味料を入れる。俺が鍋の中をかき混ぜている間にイミナは髪を一つに束ねて近くの木にぶら下がり懸垂を始めた。俺はそれに合わせてイミナの服を動きやすいようにブティックでかたどった綺麗な服から動きやすいスポーツトレーナーのような服に変身した。暇なときは筋トレが一番である、そう俺が教えたのだ。ステータスとはレベルを上げるだけでなくこうしたトレーニングでも上がるのだ。みんながテントをたておわり飯の用意が終わるまで俺はスープが焦げないようにうまい具合に温度調節をしていた。うん、いい匂いだ。肉と野菜をぶち込んだスープだ。…、とてもシンプルだがまぁいいだろう。スープとは偉大な食べ物で、いろいろな具材を入れるほどに深い味となるのだ。やがて周囲が飯の準備に取り掛かった。キーラ率いるパーティはカルナの大きな盾を鉄板代わりに肉を焼いていたようだ。…それでいいのか?コンカスタートリオはどうやら携帯食料を持ってきていたらしい。まぁ、携帯食料と言っても干し肉とパンなのだがな。みんなが食事の準備を終えたので俺はイミナにそれを伝え、イミナの汗を素早くふきとり、イミナは収納の中から二人分の皿をとり出して盛り付ける。

それぞれが食事の準備を終えて、俺らの用意した焚火の周りにある木に座り、それぞれのパーティで食事を始めた。クラッチはこれまでの様子をずっと眺め、何やら紙に書き留めていたようだ。こういうのも試験の内ってわけだな。

「じゃあイミナ、食べるか。」

「うん。」

「「いただきます。」」



しばらく談笑し、それぞれのパーティは一人ずつ見張りとして残り、他はテントの中へと入っていった。見張りは交代交代で行うのが普通なのだが、俺らは単騎である。冒険者は様々な役割を必要とするため、こういう野宿の時もパーティを組んだ方が効率がいい。だからソロの冒険者は少ないらしい。しかしソロは報酬の取り分けでもめることがないため、結構稼げるようになった強い冒険者に多い傾向があるらしい。まぁ、見張りという点において俺らにデメリットはない。テントをたてなかった俺らをクラッチは不思議そうな顔で見ていたが、俺らは木の上に登り、俺はイミナを囲むようにして丸い繭のような形になる。イミナは収納から布団と枕を取り出し、その中で眠りについた。その様子にクラッチは驚いていたが、もう慣れたといわんばかりに驚いた顔をもとに戻した。俺は眠る必要がないので夜はずっと見張りをしている。俺は分身体をできる限り上にのばし、あたりを見渡す。

何やら遠くのほうがざわついているのだが、気のせいだろうか。

俺は少し嫌な予感がした。

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