第157話 決めろエナジーボルト! 世紀の決戦!

『キュー!』


 パンジャが掛け声と共に、光の網を連続して発射したのが合図になった。

 ゼインが斧槍ハルバートを構えて魔王に仕掛ける。

 魔法を帯びた武器が、オルゴンゾーラの装甲を連続して削っていく。

 一方では、メリッサ軍団が一斉攻撃を仕掛けている。

 ボンゴレは魔王の体を駆け上がりながら、尻尾からの光線で攻撃だ。

 チョキは鉄の玉を発射する筒から、バリバリとぶっ放す。

 ビアンコは巨大化し、空から魔王に掴みかかる。

 ネーロはメリッサを載せたまま滞空し、口から炎のブレスを発している。


「メリッサが一人モンスター軍団だなあ」


「うむ。増えたものだな……っと!」


 振り下ろされる魔王の足を、レヴィアが両腕をクロスさせて受け止める。

 俺の目がくらむかと思うほどの雷が飛び散った。

 なんか、床がグラグラするぞ。

 俺はこの間にも、オルゴンゾーラが連続して放ってくる強烈な攻撃を防いでいる。


「あっ、また世界を割ってきた!」


 魔王はスナック感覚で、世界に亀裂を作って仲間たちを飲み込もうとする。

 俺は素早くそこに飛び上がって、世界接着ワールドグルーの魔法で亀裂を接着する。

 

『ギッギギギギギィッ!! お前お前お前ッ! ちょろちょろと我が力を食い止める! 目障りッ』


「へえへえ、そりゃあどうも」


 世界接着の魔法を使用する都合上、空に飛び上がっていた俺は、オルゴンゾーラと目が合う。

 ぐるぐると渦巻く真っ青な目玉が、俺を睨みながら回転を早くする。

 その回転が、また青い光を放ち始めた。

 エナジーボルトが来るな。

 俺もまた、全身を紫色に光らせる。

 エナジーボルト返しである。


 バリバリと、互いの間に生まれたぶっとい魔法の光線がぶつかりあう。

 これだけで、空間が凄まじい振動をして、そこから世界の色が変化し始める。

 俺が魔王と本気でぶつかると、世界そのものを変えてしまうみたいだ。


「ウェスカー、こらえろ! 攻撃は私が行う!」


 レヴィアもそのことに気づいたようだ。

 低く身構えて、全身に力を溜めるようなポーズをしている。

 あれは本当に力を溜めているのだ。

 彼女の体が、金色の輝きを帯び始める。

 雷の波動ライトニングサージが収束していく。


「抜剣……!」


 レヴィアが剣を抜く、その動作だけで世界が揺らぐ。

 俺に向けてエナジーボルトを放っていた魔王は、それだけに意識を裂くことを許されなくなる。

 片目だけが、ギョロリと下方を睨んだ。


『我が幼体を押し戻した力ッ!! この世界の抗体、勇者……!』


「勇者かどうかなどどうでもいい。今、ここに貴様がいて、私は貴様を害する力を手にしている。それが全てだ!」


 魔王の翼が羽ばたく。

 迫ってきていた、クリストファとマリエルの魔法をその一羽ばたきで撃ち落とし、逆にそれを収束。レヴィア目掛けて叩きつける。

 こっちの魔法を利用することまでやってくるのか。

 化け物然とした見た目に似合わず、とんでもなく器用なやつだ。

 だが、器用なだけだとうちの女王陛下には通用しないぞ。


「ふんっ!!」


 剣を抜き放った挙動で、反射されてきたクリストファとマリエルの魔法は明後日の方向まで跳ね飛ばされた。

 裏拳一閃で、神懸りと海王の大魔法を無効化したことになる。


「いやはや、これは……。洒落になりませんね。間違いなく、神々に言わせれば封印せねばならないのは魔王だけではなく、あの二人もその対象となる……。ですけれど、誰も彼らを止めることは出来ない……!」


 クリストファの笑いが引きつっている。


「わたくしたちだけなら、この戦いは絶望的なものだったでしょう。だって、先代の勇者たちは、未熟な状態の魔王を相手にして、誰一人として帰ってこなかったのですから。ですけれど、神をも恐れさせる彼らがいるからこそ、わたくしはこの戦いに希望がある気がするのです」


 レヴィアが剣を構える動作は、遅い。

 その間に、オルゴンゾーラは無数の攻撃を彼女に対して加える。

 俺は奴のエナジーボルトを食い止めつつ、レヴィアに対する攻撃を撃ち落とすことに専念する。

 即座に靴を脱ぎ捨て、足の指から放つエナジーボルト。

 そこに、炎、氷、雷、風、土、あらゆる属性を混ぜ込み、魔王の攻撃を相殺するのだ。


『邪魔を、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔をするなァッ!!』


「他人の邪魔をするのが俺の趣味でな」


 俺と魔王の魔法がぶつかり合い、あちらこちらで世界が変質していく。

 飛び散った魔力の残滓が世界の色を変え、性質を変化させる。

 だが、そんな中にあって、レヴィアはじっと剣を振り上げていく動作を続ける。

 やがて、その動きが止まった。


 メリッサもこれを見ていたらしい。

 しもべたちに、一斉行動の命令を出した。


「みんな! 魔王の動きを止める!」


「フャン!」


『キュー!』


「ぶいー!」


「ウキー!」


「御意!」


 ボンゴレが魔王の背中に組み付き、羽の付け根に牙を突き立てながら尻尾からの光線をばらまく。

 パンジャは高く飛翔し、魔王目掛けて連続した光の網を降り注がせる。

 チョキは撃ち尽くした鉄の玉を回収し、これを再び魔王の足目掛けて連射する。

 ビアンコは魔王の頭まで飛び上がり、巨大化した拳で殴りまくる。

 ネーロはメリッサを載せたまま、その巨体で魔王の半身へと組み付いた。

 おお、ネーロが妙に強くなっている気がするぞ。

 魔物使いであるメリッサを乗せているから、強化されているんだろうか。


『邪魔ァッ!!』


 吠える魔王。

 その翼を羽ばたかせ、風を巻き起こす。

 魔王が起こした風は、即ち魔力そのものだ。

 これが魔王の背後で渦巻き、オルゴンゾーラの巨体に組み付いたメリッサたちを一網打尽にしようとする。


「おいおい! 俺を忘れるんじゃねえぜ!」


 ゼインの声がした。

 斧槍を使って、高く跳躍したゼインが、オルゴンゾーラの足を駆け上がりながら、腰から得物を抜き放つ。

 それは、投げるように調整された槍だ。

 槍の先端に、なんだか見たことがあるような丸いものがくっついている。

 ……あっ、オペルクが使ってた、爆発する玉じゃないか。

 狙いは過たず、ゼインの投げた槍が、魔王が収束された魔力の只中に突っ込んでいく。

 そして、魔力と接触した瞬間、槍の先端に据えられた玉が爆発を起こした。

 この程度の爆発では、オルゴンゾーラはダメージを受けまい。

 だが、それは魔王の集中力を削ぐには十分だったようだ。

 何せ、正面で、俺とレヴィアをまとめて相手しているのだ。

 背中からチクチクやられて、意識を集中できるわけがない。


『おおおおおおっ!?』


「レヴィア様! いま!!」


「やっちまえ、女王陛下!」


「よーし、俺も頑張るぞ。パンジャの真似だ! “光輝の投網シャイニングウェブ”!」


 目と両手と両足が使用中だったので、俺はバッとローブをはだけてへそから発射した。

 よし、いけるいける。

 へそから魔法、やれるじゃないか。

 大きく広がった光の網は、オルゴンゾーラの巨体をその場に繋ぎ止める。

 異形の魔王は、束縛から逃れようと、叫びながら暴れた。


「レヴィア様、今! 今!」


「ああ……! 行け、聖剣!!」


 さっきまでのゆるりとした挙動が嘘のように、レヴィアの動きが加速した。

 振り上げきった腕を、まさに雷速で振り切る。

 黄金の輝きを纏った聖剣が飛んだ。

 それは一瞬で魔王まで到達し、その腹部に炸裂。

 爆発音が響き渡った。

 そして、オルゴンゾーラの下半身がその一撃で爆散する……!


『ぐううううおおおおおッ!!』


 いや、魔王は下半身を切り離したのだ。

 俺とのエナジーボルト合戦も無視して、飛び上がる。

 あの翼を使って、空高くまで飛ぶつもりなのだ。


「あ、こら待て!」


「ウェスカー! 私たちも飛ぶものを!」


「俺に乗ります?」


「それではそなたが十二分に動けまい」


 俺はぐるりと周囲を見回す。

 パンジャも、ネーロも、魔王を抑えた事で魔力や体力を使い切っている。

 他に飛べそうなのは、ビアンコ。

 だが、ビアンコは飛び立った魔王に振り払われ、結構なダメージを受けたようだ。

 回復はクリストファがするとして、まだ時間がかかりそうな……。


「あっ、そういうことか」


 俺はピンと来た。

 空間に、腕を突っ込む。

 あの、時空をドアに変えて行き来する魔法の応用だ。

 だが、ドアの大きさでは、あいつはここを通ってこれない。

 腕を突っ込み、広い範囲を意識して……押し上げて開ける!


「そぉい!! “時空のディメンジョン遮断扉シャッター”!! 来い、ソファゴーレム!!」


『ま”!』


 時空の彼方から、懐かしい声が響いた。

 どたばたと、彼方の空間から奴がやって来る。


「うむ! 頼むぞソファ!」


「頑張って、ソファ!」


「頼みましたよ、ソファ!」


「わたくしたちも付いていきたいのですけれど……」


「あの魔王がやらかさんうちに決めないとな。甥っ子、女王陛下、行って来い!」


 俺とレヴィアがソファに乗り込む。


「よし、では、ソファを強化するんで。“従者強化カスタマイズゴーレム”!!」


 ソファの背中に、翼が生える。

 材料は、飛び散ってきたオルゴンゾーラの欠片である。

 危なそうな材料だが、この欠片が悪さをしないうちに勝負を決めればそれでよし!


「飛ぶのだソファ!」


『ま”!!』


 翼から、真っ白な煙を吐き出しながら、ソファゴーレムの巨体が空に舞い上がっていく。

 目指すのは、空の果てまで飛翔した魔王オルゴンゾーラ。

 

「ほう、そなたも無事か」


 レヴィアの声に、横を見ると、骨の鳥にまたがったシュテルンの姿。


「オルゴンゾーラに一太刀くれてやらねば、俺の気が済まんからな……!」


 というわけで、対魔王戦、最終局面なのだ。

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