第153話 見敵必殺
さて、目に魔力を集めるイメージ。
レヴィアが以前やったように、望遠機能を目玉に持たせるのだ。
その時は、魔力を集めすぎたせいか、一時的に目が見えなくなってしまった。
今なら分かるが、あれは魔力の使い方を間違っていたのだ。
「正確には、こう。眼の前に、魔力で構成した望遠装置を作り上げるイメージをして……」
「何か出てきたな。そなた、いつのまに無から何かを生み出せるようになった?」
「いやあ、この浮かんでるものを作るために、世界を割るくらいの力を今使いましたね。んで、これを目にくっつけて、魔力を流し込んで……」
両目を覆う形になる望遠装置。
俺はこいつを装着!
ぐいぐいと魔力を送り込む。
おほー。
拡大されて地上がよく見えるぞ。
四王国は、半球状になったこの世界の端にある。
ここからちょっと移動して、サンゴ礁の島辺りがちょうど、世界の中心あたりだ。
あの辺り、遺跡とかも大量に埋まってて、訳ありっぽいんだよな。
しかし、視界を邪魔するものも無いから色々見られそうだ。
「どーれ」
そこまで移動した後、目線を下に向けた。
「あっ」
いきなり何かあった。
「ウェスカー、あれは塔では無いのか?」
「ほう、レヴィア様にも見えますか」
「見えるも何も、山ほどの大きさがある塔だ。見えぬ方がどうかしている」
「では、俺がこの望遠のために使った大魔法は無駄だったと」
「そうなるな」
俺はスッと望遠装置を消滅させた。
消す時は何の魔力も使わないのな。
「あれがオルゴンゾーラの拠点だと思うか?」
「でしょうなー。だってこの間まで、あんなの無かったもん」
「私は今すぐ、あれに突っ込んで破壊したい」
「だけどレヴィア様、あそこからはなんかですね、気配がしないというか」
「気配?」
「“
俺は、以前マリエルが使っていた魔法を再現する。見よう見まねだが、同じような魔力の動きをすれば、効果だって等しくなるのだ。
「あっ、これは中には普通の魔物しかいませんわ。オルゴンゾーラはお留守ですねこれ」
「なんだと。それでは無駄足ではないか」
「オルゴンゾーラ自体は、この間みたいな夢の世界にいるのかもですね。んで、少ししたらあの塔にやってくるんでしょう」
「そうか……。では、魔王を待たねばならんのだな。いや、待とう。この機会のために、私は十五年も待ったのだ」
「レヴィア様、四歳の頃から魔王絶対殺すウーマンだったんですか。業が深い」
「もうすぐ二十歳になる……」
「そりゃあおめでとうございます。俺もそうすると二十三かあ。あれ? 二十四だっけ?」
二人で間の抜けた会話をしながら、仲間たちの元へ戻ることにした。
ところがである。
「あっ、レヴィア様、ちょっと待って。火山島から弱い魔力が」
「どうせ急ぐ訳ではない。行くぞ!」
レヴィアの許可をもらい、ピューッと火山島へ向かう俺たち。
そこは、すっかり灰色になった島だった。
魔王に魔力を根こそぎ吸い取られてるなこれ。
「よし、任せろ!」
レヴィアが大地に降り立つ。
そして、着地ざま、振り上げた拳を叩きつけた。
人間一人の一撃で、文字通り地面が震撼する。
あちこちで、色を失って崩れている森や山が、がらがらと崩れ落ちる。
「あっ、いた」
俺は瓦礫の中でぶっ倒れている、黒い毛むくじゃらを発見した。
「ゴリラ!」
「ウホォ……」
胸に大穴を開けながらも、息がある。
やはりこいつは只の獣ではないな。
腐っても聖獣ゴリラ。
「立てるかゴリラ……って、凄いダメージだからなあ」
「ムホ……」
レヴィアも駆け寄ってきた。
「ウェスカー! ゴリラが生きていたのか!」
「ですねえ。しかし死にそうですな」
「ウェスカーが回復させればいいではないか」
「えっ、俺が回復魔法を!?」
「クリストファが出来るのだ。見よう見まねでいけるだろう」
「そう言われると、できそうな気がして来ますなあ。えーと、こうだっけ。レストアー」
腕に魔力が集まってくるのを感じる。
だが、傷を癒やすイメージが浮かんでこない。
これはちょっと、他の魔法とは勝手が違うぞ。
クリストファがどうやって回復魔法を使っていたか思い出すのだ。
ええと、確かあれは……神懸りだから、神の力を借りて……。
俺と縁がある神様と言うと。
「よっしゃ、キータス、力を貸すのだ。レストアー」
俺の腕に真っ黒な光が宿った。
いや、闇だなこれ。
それがゴリラの胸に宿ると、一気に傷を修復していく。
まるで時間が逆戻りするように、胸に空いた穴が塞がるのだ。
「ゴホホッ」
ゴリラが目をパチクリさせた。
俺が彼に膝枕しているような体勢なのだが、そのまま、自分の胸をぺたぺたと触っている。
「ムホー?」
「治ったな」
「うむ。これから私たちは魔王と戦うぞ。そなたも来い、ゴリラ!」
レヴィアが手を差し出す。
ゴリラは一瞬だけ逡巡したが、すぐに力強く頷いた。
「ウホホッ!」
ダブルゴリラ再びである。
問題は、ゴリラは飛べないため、俺が運んでいかねばならないことだけだった。
レヴィアとゴリラを抱えて飛んでいくのは、非現実的であろう。
時空の扉を開けて行こうじゃないか。
場所は、ユーティリット王国。
「ウホ?」
「これな。これをな。ぐーっと握って回してだな。ほら、空間が開いた」
「ムホーッ!?」
ゴリラがめっちゃくちゃ驚いている。
いやあ、ここまで派手なリアクションを見せてくれると嬉しいな。
最近のうちのパーティ連中、完全に慣れてきてて、俺がどんなに突飛な行動をしても驚かないんだもんなあ。
「ありがとう、ゴリラ、ありがとう」
「ゴホ?」
俺が手を取って感謝すると、ゴリラはわけがわからないようで、目を白黒させていた。
すぐさま、ユーティリット連合王国まで戻った俺たちである。
俺とレヴィア、ゴリラが姿を表すと、仲間たちが空から降りてくる。
王国最大の広場に、ネーロが降り立つと、またパニックが起きた。
メリッサが言い聞かせて、すぐに人間の姿に変身させる。
「んじゃあ、説明する。一言で言うなら、魔王オルゴンゾーラのいる塔を見つけた。だけど、今は奴はいない」
「どゆこと?」
ゴリラを自分のしもべに勧誘していたメリッサが、振り返って首をかしげる。
聖獣まで傘下に加えるつもりか。
「つまりな、ぶっ飛ばしたあいつは、夢の世界みたいなところに引っ込んだわけだ。んで、改めて恐らく魔王としての体裁を整えてこっちの世界にやって来るんじゃないか?」
「ああ。オルゴンゾーラは本来、白い服の男の姿を纏って現れる。今回の奴は赤い服……オルゴーンの姿だった。しかしあの恐るべき強さは、魔将と呼べる次元ではない」
シュテルンは腕組みをして唸る。
「大魔導。答えてほしいのだけど」
「ほい、イヴァリア。なんだい」
「塔の構造。オペルクが色々用意してたのは知ってるのよ。あの男、シュテルン様よりも古株の元人間なの。人格は最悪なのだけれど、天才よ。それを買われて、自由に動けないオルゴンゾーラを何かとサポートしてきた。きっと塔にも何らかの役割があって、それが分かりやすい形で表示されてる。さあ、塔のイメージを教えて」
「言葉で話すよりも、映像で見せたほうが早いだろう。そいっ!」
俺の目から、エナジーボルトが放たれた。
紫色の光線をキャンバスにして、そこに白い光で塔の絵を描く。
これを見て、イヴァリアが頷いた。
「間違いないわね。これは、神殿。塔の構造そのものが魔法陣になっている。これを早く壊さないと、完全になったオルゴンゾーラがここに降り立つわよ」
「だが、壊せば魔王の本体を叩く千載一遇のチャンスを逃すことになる」
重々しく言ったのはレヴィアである。
イヴァリアは一瞬、耳を疑うような仕草をした。
そして直後に、
「……正気!? 魔王が降りてきたら、それこそ世界は本当にあいつのものになってしまうわよ! 魔王はこの世界に渡ることで力を使い果たし、まだ一度も全力を振るえる状態で現れていないんだから! 先代の勇者たちは、動けなくなった魔王を命を賭けて打ち倒し、夢の世界に封印しただけ。それが今度は、誰も見たことがない、本気になって現れる……! そんなものを呼び込もうなんて、狂ってるわ!」
「いかにも。私は恐らく、ずっと正気ではない。私の魂は、魔王を倒すことに絡め取られている。こういう生き方しかできんのだ」
ニヤッとレヴィアが笑った。
「これより、我々は塔の周りでオルゴンゾーラの降臨を待つ! テントを張って、ひたすらに待つぞ!」
「へいへい。じゃあ、城に行って、ラード氏に色々用立ててもらわんといけませんな」
と、言うことで。
魔王がやって来るまで、敵の本拠地目の前で寝て待つという、前代未聞の事態になるのであった。
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