第152話 王都(上空)炎上
スパーンっとどでかい魔法がぶっ放されたのである。
王都上空に雷雲が巻き起こり、空気を焼き、耳をつんざく轟音を轟かせながら、激しい風と稲妻が魔王とうちの女王陛下を撃つ。
そして、太陽の輝きさえ一瞬色褪せるような、凄まじい光芒が空を切り裂いた。これもやっぱり、魔王とうちの女王陛下を撃つ。
「気持ちいいくらいにレヴィア様ごと攻撃してるなあ」
「これでもレヴィア様は死なないだろうという我々の経験からくる勘がありますからね」
どでかい魔法を撃ってスッキリしたらしいクリストファが、しみじみと呟く。
「では、私はシュテルンのダメージを回復させに行きましょう。レストアの魔法は、不死者であろうとダメージを再生させますからね」
「行ってらっしゃいだ。あの状態の魔王なら、俺らで倒せるな。強さ的には魔将三人分くらいだもんな」
「それでも、並大抵の強さではないのですが、私たちも規格外になりつつあるのかもしれませんね」
クリストファはパンジャに乗って、シュテルン達の元へ急ぐ。
その間、マリエルは連続して大規模な魔法を連発している。
「ふうっ……これで、魔力は限界です。ですが、やはりわたくしの広範囲魔法では、オルゴンゾーラに決定打を与えることは難しいようです。せめて、彼が大型の魔物であれば……」
「なるほどー。では、そろそろ俺がとどめを刺す感じだな」
俺はスーッと、さっきまで魔法の爆心地だった場所に接近する。
そこでは、オルゴンゾーラとレヴィアが、ぐぬぬぬぬ、と組み合っているではないか。
「あれでピンピンしてるとか」
「おのれ! 勇者めっ! お前のせいで、魔法を直接に受けることになってしまった! この肉体はもう限界だ……!」
「限界だと!? 逃げるつもりか! させんぞ!」
レヴィアはあまり話を聞いていない。
取っ組み合ったまま、オルゴンゾーラをガンガンとぶん殴る。
彼女は飛べないので、あのまま魔王を殴り倒せば、そのまま王都目掛けて自由落下だ。
だが、そんな先のことなんか考えないのがうちの女王陛下なのである!
「はーい、レヴィア様そのまま掴まえててくださいね。エナジーボルトエナジーボルト」
俺は、最も小回りが効き、威力調整と応用が容易な
大変嫌らしい戦法だ。
魔王は呻きながら、俺を、レヴィアを睨む。
そして、腕を空に向けて伸ばすと、グッと握りしめた。
「猶予はない! やれ、オペルク!!」
虚空に叫ぶ魔王。
すると、それに応じる声がした。
「で、ですがオルゴンゾーラ様! まだ負の魔力は集まりきっていません! これでは、世界を包み込むことは出来てもあちこちに粗が……!」
「やれと言っている! 世界を僕の世界へと変革させよ!!」
「はっ、はいっ!」
どこかで、スイッチを入れる音がした。
その瞬間、世界の色合いが変わる。
晴れ渡る青空が紫色に染まり、大地が毒々しい赤に変わる。
「むむっ! 何をした!」
レヴィアがすかさず、問いただしながらオルゴンゾーラを殴った。
そうしたら、どうやらそれがとどめになったようだ。
その一撃とともに、魔王が粉々になって砕け散る。
「あっ、消えてしまった」
「なんと!? これで終わりか……!」
難しい顔をしたレヴィアが、スーッと落下していく。
俺は彼女に追いつき、受け止めた。
「いやあ。終わりじゃないみたいですね。魔王の奴はこれから本気になるっぽいですよ」
魔王を倒したと言うのに、変な色になった世界がそのままだ。
「これは……」
周囲を見回すレヴィア。
仲間たちも集まってくる。
「魔王オルゴンゾーラは、ここではない世界で生まれた存在だと聞いたことがある」
シュテルンが口を開いた。
「奴は、この世界を自分が生まれた世界と同じような姿に変えようとしていたのかも知れん。それが、このおぞましい色彩に満ちた光景だ」
「うげえ! なんか生えてくるぞ!」
ゼインの言葉の通り、あちこちの地面から、黒と緑の斑になった、蛇の尾に似た塔が幾つもそそり立っていく。
それはユーティリット連合王国の王城よりも高くそびえ立つと、緑の部分をギラギラと光り輝かせ始める。
王都はそりゃもう、大変な騒ぎだ。
何せ、まずは上空で俺たちが大暴れを始めたのだ。
恐慌状態になった市民が、恐怖の叫びを上げながら逃げ惑う大パニック。
さらに、大魔法が連続して上空で炸裂。
気が弱い市民がバタバタと倒れていった。
そして最後に、このオルゴンゾーラが仕掛けた、世界変革だ。
誰もが騒ぐ力すらなくして、へたりこんで空を見上げている。
魔王め、とんでもないことをしてくれたなー。
「私たちがはちゃめちゃに暴れたところに、魔王がとどめを刺した感じだね」
「いや、そこは全部魔王のせいにしておこうぜ」
メリッサが冷静に突っ込んできたので、俺は大人の論理というやつを説いて聞かせた。
「俺だけじゃないと思うが、今まで散々世の中に迷惑をかけて生きてきたのだ。この上、さらに迷惑をかけてもあまり変わらないのではないか。だが、それはそれ、これはこれだ。今なら、魔王が全部悪かったことにできる。あいつに全部おっかぶせて俺たちで退治するのだ」
「ウェスカーさんが開き直った!!」
「甥っ子は反省という言葉を知らんな……。ストレスとは無縁の生き方だぜ……!」
「いやあ、私もかなり感化されています。何かあったら、私も神様のせいにしますからね、神懸りとして」
「わたくし、長い時を生きてきたはずなのですけれど、不思議と今が一番楽しいのです。わたくしもウェスカーさんの生き方は好きですよ」
おっ、割と俺の意見は肯定的に受け止められたようだ。
社会性というものが皆無の生き方が俺なのだが、まあそれがサガというやつだ。
変えられないので、このままどんどん尖って、自分の生き方を貫く他あるまい。
「ってことで、どうですかレヴィア様」
「ああ、構わないぞ。この先には、私がこれまで生きてきた目的が待っているのだ。私はあの日お婆様から、夢見にて魔王の復活を知らされてより、この時をずっと待ち望んでいた。どこにいるのかは知らないが、本当のオルゴンゾーラがこの世界にどこかに確実にいるのだろう」
俺の腕の中で、レヴィアが力強く頷く。
「
「へい!」
俺は彼女を抱いたまま、空高く舞い上がっていく。
空の上から、世界を見渡して魔王を探すのだ。
俺には視力を強化する魔法があるので、そう言うことも可能だ。
「ところでレヴィア様」
「なんだ?」
「この後、どうします? この後ってのは、魔王をぶっ倒した後ですけど」
「魔王を倒す前から倒したあとのことを考える者があるか。……しかし、魔王を倒した後、だと……? む、むむむ……。どうしたことだ、何も浮かんでこない。真っ白だ」
「ははは、やはりレヴィア様は魔王をぶっ倒したあとはノープランでしたな」
「うむ……。改めて、女王というものをやってもいいし、いや、それは決して面白くは無かろうが……」
「そもそも、レヴィア様は王族向いてませんからねえ」
「……反論できない」
「じゃあ、俺から提案なんですが、とりあえずハブーを使って世界中回りませんかね。んで、いい感じの土地があったら、そこに住んでみて、飽きたらまた旅に出ればいい」
レヴィアがじっと俺を見た。
彼女を抱いたまま飛んでいるわけだから、至近距離だ。
この人は、言動と行動が荒れ狂うゴリラだが、それを抜きにすれば、とんでもない美貌を持った女性だ。
普段はゴリラパワーが美貌を超越しているので誰も気づかないが、内なるゴリラを抑えることができれば、世界はレヴィアという娘の美しさに気づくだろう。
つまり世界は永遠に気づかない。
この人が内なるゴリラを抑えていられるはずがないからな!
「いいな。それは。そうしよう」
「その時は、俺がずっとお供しますよ。最初は俺とレヴィア様で二人だったんだから、終わった後も二人ってのは、なかなかオツでしょう。さあ、ついた」
俺たちが辿り着いたのは、世界の頂点。
いや、世界には頂点があったんだなあと思った。
世界の全てを一望に出来る、これ以上の上はない世界の果て、空の果て。
それがここだ。
俺の頭が、世界の果てに当たっている。
「この世界は、ちょっとお椀を伏せたような形をしてるんですなあ」
「ああ。世界は平たいと言う者がいたが、世界とは角度の浅い半円の姿をしているのだな」
さあ、世界の隅々まで見渡そう。
どこかに、オルゴンゾーラの本体が潜んでいる。
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