第151話 大魔導、大空中戦

「ってことで迎えに来たぞ」


「とんでもねえことになってるなあ……」


 俺のかくかくしかじかとした話に、ゼインがふんふんと頷いた。


「だが、くるべきところまでやって来た感じだな。ようやく魔王のお出ましか。しかもてめえであちこち滅ぼして歩いてるとか、悪趣味にも程が有るぜ」


「これは神懸りたちの悲願です。やはり、あの時ウェスカーと出会えてよかった。お陰で、この世界の敵相手に拳を叩き込む事ができますよ!」


 クリストファもレヴィアに染まってきたな。

 

「ですが、あれは魔王の一部のようなものなのでしょう?」


 マリエルはそう言うと、ちょっと悪戯っぽく笑った。


「ならば、サクサクとやっつけてしまいましょう。魔王そのものをこちらに引きずり出して、決戦いたしましょう!」


「マリエルさんもらしくなってきたねー。やっぱり、レヴィア様とウェスカーさんは伝染する……!」


 最初から俺とレヴィアに馴染んでいたメリッサが何か言っている。

 一方、シュテルンとイヴァリアは完全に戦闘モードだ。

 無言で、例の空飛ぶゾンビなドラゴンを用意している。


「皆、ここに来て怖気づくことはあるまい。そんな腰抜けは、私の仲間にはいないからな!」


「大体みんな頭おかしいですからね。んじゃ行きますか」


 俺は時空をドアのイメージで開けようとして……ふと、ドラゴンを見た。

 ネーロもまた、グレートドラゴン形態になっているな。

 俺はイメージを変えた。

 空間に手を差し入れて、こう……。


「ちょっとレヴィア様、そっち持って」


「持つ? ふむ……こうか?」


 俺の真似をして、しゃがみ込むレヴィア。


「じゃあ、今から空間をちょっと物体化しまーす」


「は?」


 俺の魔力が迸る。

 すると、手のひらにズドンと重みが来た。


「おおっ! 確かに何かを持っているような感覚になってきたな! これなら分かるぞ!」


「じゃあ、せーので開けましょうか。せー」


「おりゃあーっ!!」


 早い早い。

 この人、一人で今時空の巨大な扉をこじ開けちゃったよ。

 俺たちの目の前に、グニャグニャとねじくれた例の空間が出現する。

 映り込む、圧縮された世界の光景。

 俺はこの中から、つん、とユーティリット王国を指し示した。

 その直後、周囲の光景が加速する。

 俺たちの行く先で、時空の扉……いや、押上式の巨大な扉が開く。


 そこは、ユーティリット連合王国上空だ。

 俺たちを見上げているのは、赤いスーツの男。

 さっき俺が鼻の穴に指を突っ込んでやった奴な。


「まさか全員でくるとはな」


「うむ。袋叩きだぞ。だが思ったよりも国の被害が少ないな。ゼロイド師や魔導師達が頑張ったっぽい」


「ああ。ウェスカーが開発した魔法を、ゼロイド師は研究していたからな。これらを一般の魔導師も簡略化して使えるように調整し、広めていたらしい」


「ほう、俺のお陰ですか」


「うむ。さあウェスカー、行くぞ!」


 レヴィアのこれは、俺に乗り物なれという宣言である。

 もう慣れたものなので、馬乗りかお姫様抱っこか、どっちがいいか聞いてみる。


「お姫様抱っこされては戦えないだろう! というか人前であまりやるな!」


「では人前ではないところで……」


「ああ言えばこう言う!」


 レヴィアが赤くなって、むきーと怒った。

 これは怒って赤くなっているのではないな。

 そして向こうにいるオルゴンゾーラも、茶番を見せつけられてマジギレしてるみたいな顔をしている。


「どうだ」


 俺は魔王に向かって指を突きつけると、奴は目を凄く釣り上げて、こっちに向かって手をかざした。


「お前だけは許せん!! 燃えつきろ大魔導!!」


 俺に向かって、オルゴンゾーラの手のひらから炎が放たれる。

 ナーバンが使う、ひょろひょろとした炎とは違う。

 触れただけで灰も残さず蒸発するような、洒落にならない炎だ。


「ふんっ! “スーパー水作成クリエイトウォーター”!」


 俺の腕からも、大量の水が出た。

 炎と水が空中で激突する。

 もうもうと、凄まじい水蒸気が上がった。

 その中へ、シュテルンたちがゾンビ竜に乗って飛び込んでいく。


「俺を操った報いを受けてもらうぞ、オルゴンゾーラ!!」


 ゾンビ竜の翼が、水蒸気を切り裂く。

 シュテルンの剣は、振られると同時に骨のようなものを生み出し、ぐんと伸長した。

 骨の刃が魔王に迫る。

 だが、これはオルゴンゾーラの手のひらに受け止められた。

 止められると同時に、骨の刃が消滅。

 切り返されるシュテルンの剣が、また骨の刃を生む。

 これと一緒に、イヴァリアが骸骨やら亡霊やらを呼び出して、次々オルゴンゾーラに叩きつけている。


「裏切り者か。僕が焼き付けた烙印を剥がされてしまったのだねえ。人間に対する憎悪と、優れた能力。君は失うには惜しい駒だったが……」


 オルゴンゾーラの背後に、突然光の玉が浮かび上がる。

 これらが、炎やら光やらを放ち始めた。


「まあ、仕方ない。君は廃棄だ」


「シュテルン様!」


 魔王の背後から生み出した光が、次々にシュテルン目掛けて襲いかかってきた。

 イヴァリアはこれに、恐らくはありったけの骸骨や亡霊を呼び出してぶつける。

 それでも足りない。

 オルゴンゾーラの攻撃が、無数の不死者達を盾としても防げないのだ。


「おおおおっ! オルゴンゾーラぁぁぁっ!!」


 なんか断末魔の悲鳴みたいになってるな。

 ということで、割り込む俺である。

 具体的には、真横からエナジーボルトで殴りつける。

 魔王が放った光が、俺の魔法で半分消えた。


「またお前か! いや、お前だけが僕に拮抗できる……!」


「いやいや、俺たちもいるぞ」


 わざわざ声を掛けてから躍りかかるのは、この前みたいにビアンコに乗ったゼインだ。

 空飛ぶ白猿ビアンコは、速度こそ出ないが、かなり器用に飛び回るようだ。

 ゼインが手にしているのは、この間と同じ槍。

 いや、穂先の形が違う。

 背の側が鈎みたいな形になっている。


「武器で僕をどうにかしようなど……むっ!?」


 ゼインの突きが撃ち込まれる。

 これを弾こうとした魔王の手を、穂先の回転ではたき落とし、ぐんと伸びて腕を傷つける。

 掴み取ろうとしたオルゴンゾーラだが、ゼインは槍を下方へ回転させ、捉えさせない。


「俺としちゃ、この技しかないもんでな。だが、あんたの動きは割とわかりやすい。強い分だけ奢りがあるよな。技を鍛えてない」


「なんだと、ただの人間が!」


 魔王の背後に、また光の玉が生まれる。

 それがゼインを狙おうと……したが、ビアンコが魔王との距離を詰める。

 これで、オルゴンゾーラが影になってゼインを魔法で撃てない。

 距離を詰めたゼインが、武器を即座に組み替えた。

 柄の短い手槍だ。


「ぬうっ!」


 守りを固めるオルゴンゾーラ。

 だが、その腕を、ゼインは槍の背部にある鈎で引っ掛けてこじ開ける。


「ただの人間だが、俺もきっちり仕事はやるんでな。ほれ、女王陛下、守りはこじ開けたぜ!」


「よし!!」


 そこへ突っ込むのが、我らが女王であるレヴィアだ。

 俺が魔法で打ち出したのだ。

 飛び込んだレヴィアが、ゼロ距離から魔王をぶん殴る。

 これを手のひらで受け止めるオルゴンゾーラだが……。


「ふんっ!!」


 そのまま力で押し切った。

 これまで、オルゴンゾーラと会敵した二回の戦いでは、攻撃を全て無効化されていたレヴィアである。

 だが、今までのレヴィアとは違うのだ。

 もっとパワー方面に特化したレヴィアなので、同じ方法では防げない。

 あ、いや、防げるんだけど、防いだガードごと殴ってぶっ壊すのな。


「ヒューッ! 俺ならガードを迂回する方法を考えちまうな。全く同じ動きのまま、馬力だけを強化していくってのは、まともな頭じゃ考えつかないよなあ」


 呆れたように言いながら、後退するゼイン。

 あの戦場にいると巻き込まれてしまうのだ。

 次いで、クリストファとマリエルが、ネーロに乗って前に出た。

 これは……レヴィアごと攻撃する構えだな。


「ぐおおおっ!! お、お前たち、自分たちのリーダーごと魔法で焼き払うつもりか! 正気か!?」


「いやあ……。正気だったら、ウェスカーさんと一緒に行動しないよねえ」


 魔王の叫びに、メリッサが半笑いで答えた。

 俺と一緒なのは正気ではないからだとは、どういう意味か。


「私が魔王を抑えている! さあ、私ごとやれ! 私なら大丈夫、無事だ!」


 なんという説得力だろう。

 クリストファもマリエルも笑うと、即座に詠唱を始めた。

 さあ、王都上空で極大攻撃魔法がぶっ放されるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る