第148話 ぶち抜け黄金竜
アポカリフの奇襲から始まった戦闘だが、時間とか加速させてレヴィアを救い、そのついでに鼻先に大量の泥玉をぶちまけた俺の活躍で、状況は仕切り直しだ。
全身から金色の炎を放ち、アポカリフは泥玉を焼き焦がして払い落とす。
『うぬらがここまで来たことは褒めてやろう。我が竜の大群をも跳ね返し、降臨の地までたどり着いたこともな。だが……!!』
アポカリフは二本の足で立ち上がり、巨大な腕である方向を指さした。
そちらには、俺とレヴィアが模擬戦の結果、ノリで粉々に破壊した山の姿がある。
『あれはやり過ぎだろう……!! 先代勇者たちもあそこまではやらなかったぞ! 前代未聞にも程がある! それどころか、オルゴンゾーラ殿の肉体を破壊しようなどと、あまりにもルール無用……! 悪逆非道!』
「散々な言われようだなあ。だが、思いついたらやりたくなっちゃうものだろう」
「うむ。魔王を倒すためなら、少々の悪逆など仕方がない」
『勇者の力を持つものがそれで良いのか!? うぬはしかも、一国の女王であろうが!』
「私は魔王の敵だが、正義の味方ではない!!」
「レヴィア様も、かなーりフリーダムになったよな」
「権力の頂点を拳一つで極めたからな。もう私が世界のルールだ」
「確かに」
『ええい、言葉が通じている気がせぬ!! こうなれば問答無用! 我の全力を以てうぬらを葬ってくれる!』
宣言と同時に、オルゴンゾーラ本体の表面がめくれ上がった。
地面を走る黄金の炎だ。
なんかよく分からんものが襲ってくるぞ。
「よし、飛ぶぞウェスカー!」
「へいほー!」
俺は速攻でレヴィアに駆け寄り、抱き上げて空に放り投げる。
そして俺も、追い掛けて飛翔。
レヴィアの手を引いて飛ぶ。
俺たち目掛けて奔ってきた黄金の炎は、即座に鎌首をもたげ、空に向かって突き進む。
「おいおい、追い掛けてきやがる」
「私を背中に乗せろ、ウェスカー!」
「よっしゃ!」
レヴィアをさらに高く跳ね上げて、彼女の下で速度を落とす。
迫ってくる黄金の炎だが、その前にレヴィアが立ちはだかった。
彼女の足は、俺の背中を土台にして立つ。
「ふぅぅぅあぁっ!!」
気合と共に、レヴィアが接触しようとした黄金の炎を殴り飛ばした。
炎が弾け、砕け散る。
次々に襲いかかる炎を、こうして肉弾戦で叩きのめすのだ。
実に戦い方がシンプルでわかりやすい。
俺たちの周囲、三百六十度どこから襲ってきても、俺がそちらに背を向けると、レヴィアが自動的に迎撃するのだ。
地上よりも空中の方が死角がない。
『ええい、うぬらの動きが読めん! 小癪な!!』
周囲の風を巻き上げて、アポカリフが飛び上がる。
浮かび上がるだけで、奴の真下に小さな竜巻が幾つも出来上がる。
その挙動全てが超自然現象を生み出すような魔将なのだろう。
だが、こちとら何をやっても世界を壊しかねない女王だぞ。
『死ねえ、今世の勇者よ! 我が突撃は、大山をも一撃で崩すぞ! おおおおおお────!!』
「ウェスカー、足場になれ!! ぬうおおおお────!!」
「あーっ、俺を踏み台にして凄い力を掛けていったー」
俺が踏ん張らないと、地面に叩きつけられそうな勢いでぶっ飛んでいったレヴィア。
空中で、真っ向から黄金竜と激突する。
おー、あれ頭から行ったなー。
とんでもない爆発音と、空間が揺らぐような衝撃が走る。
ちょうどこの辺りで、仲間たちも駆けつけてきた。
「よっしゃ、みんなでアポカリフをフルボッコだ!」
「もー、ウェスカーさんとレヴィア様、すぐに始めちゃうんだもん!」
「見て下さい。流石はレヴィア様、あのアポカリフと頭突きをしあって、少し押していますよ」
クリストファが冷静に戦況を分析する。
レヴィアはふっ飛ばされたが、とんでもない破壊力で頭を殴打されたアポカリフ、明らかに動きが鈍っている。
「よし、“いでよ、我が眷属”!」
「現われよ、骨の竜……
骨の翼、腐った肉を持つ竜が出現する。
これに、シュテルンとイヴァリアが飛び乗る。
その横を、巨大化したビアンコが飛翔する。空飛ぶ大猿には、ゼインとボンゴレが乗っている。
ネーロの上には、メリッサ、チョキ、パンジャ、クリストファ、マリエルがいるわけだ。
こちらは総勢八人と四匹。
いやあ、増えたもんだ。
『おのれっ、ちまちまと群がりおって!!』
「ウキーッ!」
振り回された黄金竜の腕を、ビアンコが全力で受け止める。
その腕を伝って、ボンゴレがゼインを乗せて走るのである。
「フャーン!!」
「おらぁ! 行くぜ!!」
ゼインが、全身に装備された武器をすごい速さで組み合わせる。出来上がったのは長い槍だ。
そいつで、当たるを幸いとアポカリフの腕を次々に切り裂いていく。
『ぬぐわああああっ! ただの人間風情がああああ!!』
「うるせえぞドラゴン! その人間風情がどんだけ強いが思い知れやあ!!」
腕の付け根から、翼目掛けて跳躍するボンゴレ。
ゼインの槍が、被膜を大きく切り裂いた。
さらに逆からは、屍怪竜に乗ったシュテルンとイヴァリアだ。死霊術師のイヴァリアは、呼び出した不死の怪物たちを次々、アポカリフ目掛けて降り注がせる。
「行くぞイヴァリア!」
「はっ!」
屍怪竜がアポカリフに接近した。
その巨体を足場に、シュテルンが黄金竜に剣を叩きつける。
『裏切り者! 二度も命を与えられながら、オルゴンゾーラ殿に逆らう愚か者が!!』
「ほざけ! 俺は人間を憎んではいるが、世界を滅ぼそうとまで思っちゃいない。世界を喰らわんとするオルゴンゾーラは、この世界にある全ての者の敵だ!!」
『人間どもと付き合って、おかしな思想でも植え付けられたか!!』
黄金竜と屍怪竜が争い始めた。
ここに、マリエルが範囲を限定した属性魔法を叩き込んでいるから、戦場は大混乱だ。
しかし、アポカリフは頑丈だな。
四方八方から攻撃されても、全く落っこちて行かない。
確かに、他の魔将とは物が違うのだろう。
『ふんっ! 薙ぎ払ってくれるぞ!!
黄金の波動が生まれた。
そいつは一気に広がると、アポカリフを四方八方からボコボコにしていたうちのパーティを、まとめてふっ飛ばした。
「ぬううー!!」
「うわあっ!」
シュテルンとゼインが空中に投げ出される。
これを、ネーロが飛来して受け止めた。
「うわあ、あんなのやられたら、取り付いて攻撃できないじゃん……!」
メリッサが、ぐぬぬ、という顔をした。
ネーロの上では、クリストファが仲間たちのダメージを回復させている。
「あんなのデタラメだよ。ここまででたらめな事をされたら、もう……」
パッと顔を上げるメリッサ。
「こっちもデタラメをぶつけるしかないよね! ウェスカーさん! そろそろレヴィア様が降ってくる!」
「おー。そんなに高いところまで打ち上げられてたのか」
俺はメリッサに教えてもらうと、シューッと空まで上がっていった。
仏頂面で真っ逆さまに落ちてくるレヴィアを発見。
彼女をキャッチだ。
「やはり重量が足らんな……。人間ではドラゴンとぶつかりあうと、押し負けてしまう」
「レヴィア様の地力だけだと厳しいでしょうな。そこで俺にいい考えがある」
「ほう」
「ほら、あそこにアポカリフが超怖い顔をして襲ってきますけど」
「ぬうーっ! まだピンピンしていたかアポカリフ!!」
「俺がレヴィア様を魔法で加速して打ち出すのです」
「なにっ! よし、やるぞ!!」
そう言うことになった。
「じゃあ、ちょっとレヴィア様の
俺はレヴィアの背中に手を触れると、するっと彼女が纏う力を摘み出した。
「うわっ、くすぐったいな!? しかしそなた、器用だなあ……」
俺は自分のエナジーボルトを、雷の波動と絡ませる。
稲妻と紫の輝きが、ねじれて一つとなる。
これを俺の腕に纏わり付かせて、バネのようにねじる。
「レヴィア様、構えて!」
「うむ!! いつでもいいぞ!!」
『ごおおおおおっ!! 焼き尽くしてくれるぅっ!!』
アポカリフが、こちらに向かいながら口を大きく開いた。
喉の奥に炎が見える。
「口を開けるとは不用心な。行くぞレヴィア様、ぶち抜け! “
雷と紫の螺旋が、巨大な筒を作った。
その中を、自らの雷の波動で加速しながら、レヴィアが突っ走っていく。
そして射出だ。
空を切り裂き、空間を焼きながらレヴィアが跳んだ。
『!?』
吐き出されるドラゴンブレス目掛けて、輝くレヴィアが突っ込む。
一瞬、アポカリフが停止した。
その直後、奴の巨体が一回り大きく膨れ上がる。
巨大化したのかな? と思うと、その目から、鼻から、口から尻から……ついには腹や背中を突き破って、光が放たれる。
『おごごごごがががががあああああっ!! オッ、オルゴンゾーラ殿ォォォォーッ!!』
それがアポカリフの断末魔だった。
黄金竜が、粉々に爆散する。
ちょうど、竜の尻があったところにレヴィアがいた。
微妙な顔をしている。
「尻で止まってしまいましたか」
俺は彼女をキャッチすると、尋ねた。
うむ、なんとも言えぬ香りがする。
「ぬぬぬ、少々貫通力に欠ける魔法だったな。だが、尻に留まれたからこそ、私の力とウェスカーの魔法、そして奴のブレスを全て利用できたのかも知れんな」
「ですなあ」
俺はうんうんと適当に頷きつつ、レヴィアに水をぶっ掛けて洗うのだった。
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