第146話 模擬戦という名のナニカ
「一人増えてねえか……?」
「メリッサに外のグレートドラゴンが従えられた姿だ」
「げえ」
ゼインが目を剥いた。
まあ、そりゃあそうだ。
まさか、グレートドラゴンまで従えちゃうとは思わないよなー。
「まさか人になっちゃうとは思わなかった!」
おっ、メリッサ自身がびっくりしてるぞ。
甲斐甲斐しくメリッサの世話を焼こうとする、グレートドラゴンのネーロに戸惑っているようだ。
「ささ、主よ。ご自分の足で歩かれる必要はございません。私の背中を使って……いや、いっそ私を足蹴にして犬とお呼び下さい」
「ひぇー」
引くメリッサ。
ネーロは理知的な外見のなかなかイケメンな竜人なんだが、危ない趣味があるのかもしれない。
そこへレヴィアもやって来た。
「なんだ? ボンゴレが私を引っぱるのだが」
「フャン! フーッ!」
「ボンゴレがネーロに対抗心を燃やしてるな。犬対決かな?」
「ボンゴレは猫だよウェスカーさん!」
にらみ合う、赤猫ボンゴレと黒くて自称犬のイケメン、ネーロ。
メリッサを巡る三角関係である。
ちなみにネーロ、レヴィアが姿を表すと、スッと大人しくなった。
「どうしたんだ?」
「私を力でねじ伏せた方ですので、ヒエラルキー的に私より上なのです」
「そっかー。うちのレヴィア様は強烈だもんなー」
「貴方様も彼女のしもべなので?」
「俺はどうかなあ。どっちかっつーと、相方かな」
「あの女性の相方を務めることが出来る……!?」
なんだろう。
ネーロの視線に尊敬の色が混じり始めた。
「ウェスカー、何をひそひそ話をしているんだ? どれ、ネーロとやら。私がその実力を試してやろう。皆が休みたいと言うから休みを取るが、私は一日何もしないと腕が鈍りそうでな」
「やめて下さい死んでしまいます」
ネーロがレヴィアに向かって土下座した。
「ネーロもこう言っているので許してやりましょうレヴィア様」
「ふむ、ウェスカーがそう言うなら……。だが、私のこのちょっとやる気になった心はどこにやればいいと言うんだ」
「おっ。俺にいい考えがあります」
天啓である。
素晴らしいひらめきが俺に降り注いだ。
この場に揃ったうちの仲間たちは、スーッと顔色を青くする。
「すっごく嫌な予感がするんだけど……」
「私も神のもとに召される時がきたのでしょうかね」
「おう、俺、生きてられるかな……」
「地形が変わりますわね……」
「何をやろうというのかは大体分かった。正気か」
「シュテルン様、あいつらが正気であったことは一度も無いかと」
何を恐れているんだ。
俺はこの素晴らしい思いつきを、レヴィアに語ったのである。
「俺と模擬戦をしましょう。この世界は広いから、何をやっても大丈夫でしょう!」
次の瞬間、仲間たちの絶望に満ちた呻き声が響き渡ったのである。
ここは、集落から遠く離れた場所。
降臨の地とか言う、壁のように連なる山の真上だ。
そこまでレヴィアを乗せて、びゅーんと飛んできた。
途中、慌ててワイバーンが飛び出してきたが、速度でぶっちぎってやったのである。
「この辺りで模擬戦しましょう」
「ほう、山の上とはなかなか面白い戦場だ」
レヴィアも納得したようである。
どんどんと周囲にワイバーンが集まってきており、降臨の地からは巨大な地を這うトカゲみたいなのが次々に現れている。
ドラゴン大集合だな。
だが、今回は俺とレヴィアの勝負なので、君たちはお呼びではないぞ。
「レヴィア様、無視しましょう、無視」
「うむ。しかし、まさかそなたとこうして模擬戦を行う事になるとはな……。あの時の始まりは、私がそなたに守られる側だったか……」
「ええ。レヴィア様が剣を投げつけてくるので、死ぬかと思いましたねあの時は。今は死にませんけど」
「ほう? 私の剣を投げられても平気だと?」
「ふふふ、試してみますかね?」
レヴィアの全身から、稲妻のような輝きが漏れ始めた。
足場になった岩山がひび割れ、あちこちが崩れ始める。
これに巻き込まれて、飛びかかろうとしてたドラゴンが何匹か黒焦げになる。
次は俺だ。
俺はああいうのは無いが、なんか魔力みたいなのをドバーッと出せばいいだろう。
意識すると、風のようなものが巻き起こった。
魔力が凝縮されて、物理的な効果を及ぼすほど濃密になっているらしい。
俺の髪が逆立ち、ふわりと宙に浮く。
「さあ、どこからでもどうぞ、レヴィア様」
「いいだろう。全力で行くぞ! 模擬戦だから死ぬなよ!」
「ハハハ、大丈夫ですよ、模擬戦ですから」
かくして、俺とレヴィアが激突する。
楽しい模擬戦の始まりだ。
遠く離れた集落にて。
メリッサはお茶など飲みつつ、降臨の地で行われる、模擬戦などと自称する大騒ぎを見つめていた。
「あっ、爆発した爆発した。ひえー、岩山に丸い穴が空いたぁ」
「降臨の地はここ千年の間、誰も傷つけることができなかったんですが……。本当に模擬戦の申し出を受けなくて良かった……」
「あっ、今度は世界が割れたよ!」
「ヒェー! なんですかあれは、メリッサ様!!」
「ウェスカーさんがスナック感覚で世界を割ったんだと思う」
「あっ、今度は稲妻が世界を貫いて、割れた世界を繋ぎ止めましたよ」
「あれはレヴィア様だねー。まあ、段々規模が大きくなってきてるけど、いつもの事だよ?」
「ここからでは視認できないサイズなのに、二人が確かに戦っているのが分かりますね……。恐ろしい。ああ、メリッサ様、お茶のおかわりです」
ネーロが甲斐甲斐しく、メリッサの椀に茶を注いだ。
その横で、降臨の地が爆発し、弾け飛ぶ。
この数分ほどで、降臨の地のサイズは半分くらいになっていた。
「あの辺りには、私やアポカリフのように、知性を持った人としてのドラゴンは存在しません。ですが、どこかであの光景を見ているに違いない。模擬戦とは言いますが、これは恐らく、最高レベルの示威行動ですよ。彼らに手出しをしたら、あの馬鹿げた……本当に常識はずれな破壊力が自分に牙を剥く……!」
「この集落の他にも、ドラゴンが住んでるの?」
「ええ。そのほとんどは、アポカリフに与しています。ですが、先程までの私のように、自由意志を奪われているものは少ない。多くはオルゴンゾーラと事を構えたくないがために、自らの意思でアポカリフの手下になっているのです。オルゴンゾーラの下についた結果、あの人達と戦うことになるのでは意味がない」
ネーロが顔をしかめた。
「あれは、戦うべき相手ではありません。人の形をした災厄です。破滅そのものです。正気では彼らと相対する事など出来ません!」
「なんか分かる! まあ、でもあの人達、なんだかんだでいい人だから大丈夫だよ?」
「メリッサ様はお強い……」
「まあねー。でも、何もかも終わったら、普通の女の子に戻るつもりだよ?」
屈託なく笑うメリッサの向こうで、また大きな爆発が起こった。
稲妻と、炎と、紫色の光が空を極彩色に染めていく。
正に、この世の終わりの光景であった。
「メリッサ様は戻れても……彼らは……どこに行くことになるんでしょうね……」
「ウェスカーさんとレヴィア様? ふふふ、案外上手くやってくんじゃないかって私は見てるよ?」
「ええ……。私にはとても、そのようには思えない。根拠はあるんですか?」
「むふ、女の勘」
メリッサはとびきりのウィンクをした。
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