第141話 装備を更新、マクベロン王国

「レヴィア陛下ーっ」


 マクベロン王国に到着するや否や、ひらひらで豪勢なドレスに身を包んだ美女が、猛烈な勢いで走ってきた。

 兵士たちが慌てて道を開ける。

 彼女、アンジェレーナ姫は、レヴィアめがけて一直線。


「お会いしとうございましたー!!」


 おおーっ!

 ドレスのまま跳躍したーっ。


「久しいな、アンジェレーナ王女」


 そんな彼女を、高い高いの体勢で軽々とキャッチして、そのままくるくる回るレヴィア。

 うむ、相変わらずのゴリラパワー。

 ドレスも合わせて、アンジェレーナ王女は成人男性に近いくらいの重さがあるはずだが、まるで重さを感じていないかのような扱いだ。


「はい、私はマクベロンの復興に尽力しながら、レヴィア様がついに四王国の盟主となられたこと、そして次々に魔王軍を撃破していることを聞き及んでおりました。その度に、あなたがどんどんと遠い人になってしまうような気がして……」


「? 私はずっといつものレヴィアのままだが」


「レヴィア様基本的に変わらないよねー」


 メリッサがうんうんと頷く。


「はい。それが嬉しく思います! 私、縁談の話も断って、レヴィア様がいらっしゃるのをずっと待ち続けていたのです!」


「いやいやいや、復興が必要なら縁談断ったらだめなんじゃね……?」


「目がお花畑になっていますね。恋する乙女は無敵だから仕方ありません」


 ゼインとクリストファがひそひそと話し合った。

 彼らの言葉に、近くにいた兵士たちも、うんうんと頷く。

 マクベロンの兵士たちと、これまでにないくらいシンパシーを感じあったぞ。


「ですけれど、確かにレヴィア様に抱かれると、不思議な安心感を覚えるのですよね。わたくし、この間お願いしてお姫様抱っこをしてもらったのですが、年甲斐もなく少女の気持ちに戻ってはしゃいでしまいました」


「えっ、マリエルいつの間にそんな事を」


「ウェスカーさんは逆にレヴィア様をいつもお姫様抱っこなさっているから分からないでしょう? でも、レヴィア様がお姫様抱っこされるのを許すのは、貴方だけですからね」


「いやそういう話ではなく」


 我がパーティは色々大変なことになっている気がするな。

 というか、レヴィアのお姫様抱っこの評価が高いというのはどういうことだ。

 あっ、そう思っていたらいつの間にか、アンジェレーナ姫がレヴィアにお姫様抱っこをされている!


「ではご案内致します。お父様がたもお待ちですから!」


「……こいつらに接触した人間はみんなおかしくなるのではあるまいな?」


 シュテルンがぽつりと呟いていた。




「おお! レヴィア陛下、よくぞお越しになられました!」


 マクベロン王は玉座から数段降りた場所に立ち、俺たちを出迎えた。

 彼はレヴィアの臣下ということになるので、この玉座はレヴィアが座るものなのだ。


「ああ、出迎えご苦労」


 レヴィアはアンジェレーナ姫を抱っこしたまま、玉座に腰掛けた。


「あれえ……?」


 マクベロン王が首をかしげる。


「むっ、そう言えばアンジェレーナ姫を下ろすのを忘れていた……!」


「私はこのままでも一向に構いません!」


 必死に抵抗するアンジェレーナ姫だが、圧倒的パワーの差はいかんともしがたい。

 ストンと脇に降ろされてしまった。

 次いで、レヴィアの前に歩み出て振り返ったのはゼインだ。


「それでですな、陛下。話をしていた新しい武器の件はどうなってますかね」


「おお、ゼインか。そなたの活躍も聞き及んでいるぞ。我がマクベロンの騎士が魔王軍と渡り合っていると聞き、余も鼻が高い……」


「えっ、俺の騎士籍、まだ抜けてないんですか」


「うむ。こんなこともあろうかと思ってな」


 国王、策士である。


「無論、そなたが我が国に依頼してきた仕事についても、状態は万全ぞ。投入された資金は、我が国復興のための重要な糧となっている。大臣!」


「はっ。女王陛下、報告いたします。我が国の職人は幸い、多くの者が無事でありまして、手持ち無沙汰となっている彼らを総動員し、陛下御一行が扱うための武器と防具を作成しておりました」


「た? 過去形だ」


「フフフ、その通り!」


 俺の言葉に、大臣は得意げに髭をつまんでみせた。

 髭、いいなあ。

 俺も生やそうかなあ。


「ウェスカー! そなた何故下にいる! 今のそなたの立場は、親王に匹敵する位階だぞ! 私の横に来い!」


「へいへい」


 レヴィアからお呼びが掛かったので、俺は彼女の隣へ。

 肘置きに彼女の手が乗っていたので、その上からぎゅっと手を掴んだ。


「あっ、そなた、な、何をー」


 レヴィアが驚愕し、すぐに赤くなった。


「えっ、隣にって、手をつないでいて欲しいわけではなく?」


「そなた、公衆の面前だぞ! い、いや二人きりのときにされても私は困る! 困るが……!」


 なぜか、俺とレヴィアのやりとりを、みんな微妙に目を逸らして見ないふりをしている。

 ゼインと大臣のやりとりで、状況が進んでいっているようだ。

 今回の話は、ゼインがマクベロン側に俺たち用の装備を発注していたということらしい。

 そして、それは既に完成していると。


「運んで参れ!」


 大臣が声をかけると、台車に乗せられた装備群がやってくる。

 レヴィア用の白い鎧は、動きやすいように守る箇所が最低限。胸元と腹だけだ。他は、取り外しが自由にできる部分鎧が幾つか。

 そして、ゼインはもう、見るからにギミック満載の鎧。あちこちに武器を設置出来る他、パーツを取り外すと武器に変形しそうな気配がする。

 メリッサは可愛い猫耳フードのローブ。強い守りの魔力が込められているな。

 後は、やはり守りの魔力を込めた腕輪や指輪。

 これらはクリストファやマリエル、後から加わった仲間のシュテルンやイヴァリア用か。


「ふむ……。本来なら俺たちを害する効果がある装備なのだろうが……。普通に装着できるな」


「私達、未だに死人と同じなはずなんですけどね」


 シュテルンは、装備の色を塗り替えている。

 赤ではなく、金色に近いオレンジだ。

 イヴァリアは白い衣装になって全然印象が変わったので、そのまま。

 二人とも顔つきはかなり穏やかになったので、ここを支配していたときの二人を知る者が見てもわからないんじゃないだろうか。


 こうして、俺たちは装備を更新したわけである。

 ……。

 あれっ、俺は?


「ウェスカーさん、なんか変なローブずっと着てるし、そのローブだってなんか勝手に強くなってるじゃない。それに、いっつも手ぶらで最前線に行っちゃうし」


「それもそうか」


 メリッサがもっともな事を言ったので、俺は納得した。

 俺は大変安上がりなのだな。

 その後、マクベロン復興の進捗状況の報告などがあり、つつがなく状況は終了した。

 ウィドン公国みたいに、女王と公爵の仲が最悪だからこじれそうになる……ということもなく。

 やっぱり、レヴィア自身がこの国を開放する戦いで、率先して拳を振るって大暴れし、国民たちに勇姿を見せつけたのが良かったようだ。

 ユーティリット連合王国に組み込まれる、という段になっても、国民たちから不平不満は出ず、兵士たちも両手を挙げて賛成だったとか。

 まあ、間違いなく一番魔王軍と戦っている武闘派君主だからな、うちの女王陛下。


「ということで」


 アンジェレーナ姫が宣言した。


「これから私、陛下と二人きりで語らいますので、入室は禁止です!」


「えっ?」


 首をかしげるレヴィアだが、その背中を押されてアンジェレーナ姫の私室に消えていく。

 このお姫様、本当にレヴィア大好きっ娘だなあ。


「じゃあ、うちの女王陛下がお仕事してるうちに、俺らはまた一休みだな」


「おい、シュテルン。装備の性能を確かめようぜ。中庭でどうだ?」


「良かろう。人間でありながら俺と渡り合ったお前のことだ。また力を上げているのだろう?」


 ゼインとシュテルンが男臭い会話を交わしあい、新装備を手にして外に出ていく。

 溜息を吐きながら、後を追うイヴァリア。


「ウェスカーさん、それじゃあ私たちは……」


「うむ。久々に王宮のスイーツをいただくとしようじゃないかメリッサ君」


「ヒューッ!」


 俺とメリッサは大きくテンションを上げ、マクベロンの菓子を所望に厨房へと向かうのだった。

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